第53話 ひたひた
宵闇が深まるにつれて、鳴りを潜めていた業風が、いや増して激しく吹き荒れてきた。マンションをがりがりと揉み上げ、叩きつけるように襲いかかる。
しかし、玄関のドアは頑として開こうとしなかった。風が猛り狂えば狂うほど、それは頑なになるようだった。蜜柑が得意げにいう。
「どや、わてのセンスは。強風のため閉鎖中やで? 風が強まるほど御札の力も強まるっちゅう寸法や。あとは夜明けまで耐えればええ。訪いの神様は時を逃せばもう来やへんさかい。さあ、朝まで酒盛りやでぇ」
相変わらず業風の吹き荒れる中、蜜柑と千里、そこへ名坂警部補と狭間巡査、また五郎も加わっての酒盛り再開、半ばやけくそである。
理奈も目を覚まし、美琴、葛音、それに将吾が寝室で付き添っていたのだが、酔っぱらった蜜柑が声をかけにきたという。
「おまんらも来い。ん? 理奈はんが心配やて? だいじょうぶや。わて直筆の御札を二枚も貼ってあるんやで。外から破られることは絶対ない! 理奈はんの様子が心配なら、これでどないや」
言うと同時に壁や天井が消え失せ、七月の夜空が一面に広がった。家具の配置はそのままに、全面プラネタリウムと化す。みんなの声が聞こえるから平気と理奈も応じ、全員、再び酒盛りに参戦となった。
調子に乗った蜜柑が力を使い、室内に広がる夜空には、ぽん、ぽん、ぽんと花火も上がる。どや、綺麗やろ? と自慢げな蜜柑だが、目に見えぬ気配が、ひたひたと足元を濡らしているのだった。




