第46話 嘘、嘘、嘘の嘘っぱち
なにか隠し事をしているのではと面白半分に尾行していた面々が密かに見守るなか、理奈のマンションに五郎が入っていった。有名人なら、週刊誌の良い写真ネタになるだろう。
オートロック式の入り口で理奈の部屋のインターフォンを押すかどうか迷っていると、意を決したようにボタンを押したのは稲田美琴である。
「ね、猫柳理奈さんですね? 五郎さん、そこにいますか!」
「……どなたですか」
と警戒するような返事があって。しかし、美琴は耳が聞こえないのだ。振り返って妹の葛音を呼ぶ。
「え? あ、あたし? そんな無茶な。あ、あのですね。うちのパオーン、じゃなかった。アルバイトの五郎なんですが、そちらにお邪魔していたり……」
「知りません。部屋を間違えてますよ」
「いーや、間違ってないね! 理奈! あんただろ。この千里さんが、あんたの声を聞き違えるもんか。さあ、今日こそ事情を話してもらうよ」
「事情は話したでしょ。母さんのように弁護士になるんだ。もうバンドなんてしてられないの」
「嘘だね。嘘だ! 嘘、嘘、嘘の嘘っぱち! あんたの嘘と本音ぐらい、そんなのわからないような付き合いだと思うのかい?」
「とにかく会えないから、帰って!」
と、インターフォンを切ろうとした時、ちょうど訪ねてきたのは名坂警部補と狭間巡査である。千里に気付いて、狭間巡査が声をあげた。
「あ、夏野千里だな! 聞きたいことがあるんだ。今度は逃げるなよ」
名坂警部補の制止にも気付かず、狭間巡査が千里を捕らえようとするが、ひらりと避けられてしまう。間に入った将吾ともみあいになり、そばにいた葛音の儚い胸に、失礼、あるかなしかの胸に手が触れたの触れないのと大騒ぎだ。そんな様子を面白そうに眺めながら、千里が理奈に呼びかける。
「まだ聞いてるんだろ? 早く入れてくれないと、もっと大騒ぎにしてやるぞ。そっとしておいてもらおうったって、そうは行かないからね」
インターフォンの向こうから溜め息が聞こえ、仕方ない、入って、と続いた。




