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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第2章 Black Cats
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第40話 そうはいかん


 理奈の部屋は開放的な様子である。窓ガラスが割れて、そこから空に直結しているのだ。吹き込む風に晒されながら、神辺警察署のベテラン刑事が難しい顔で唸っていた。


「信じるしかないな」


「名坂さん、何を信じると言うんです?」


 不満げに応じるのは狭間巡査だ。目の前に並んで座る理奈と五郎を疑わしげに見比べる。


「こいつらの作り話か妄想か。七人様だか六人様だか知りませんが、なんの戯言たわごとですか」


「怖いのか、狭間?」


「こ、怖いわけないでしょう。そんな妖しげなモノ、あるわけ、あるわけが……」


 と繰り返す視線の先には、小さなくまのマスコットだ。電池式とも思えないが、滑らかに動いて、喋って、立って、笑い声をあげている。


「信じるしかない。こんなものを見せられてはな」


「こんなものってなんや! おまんらの頭と記憶をいじくって廃人にしてやってもええんやで」


 そんなんできるの? と小声で聞く五郎に、いや、できへんけど、などと応じる蜜柑である。それはさておき、ここに至ったそもそもの理由として、夏野千里に聞きたいことがあったのだとか。


「ドラッグを売り捌いていた連中を一網打尽にした事件があってな。匿名通報を受けて臨場した警察官がバイヤーを見つけて、そこから芋づる式だった。そこの防犯カメラに映っていたのが、バイヤーを投げ飛ばす夏野千里だったのさ。夜店で売っているような狐面を被って、カメラに向かってピースしてやがった。とにかく本人に話を聞こうと、そう思ったところが。まったく、妖しいことに巻き込まれてしまったな」


 ふぅと息をついて、クッキーを貪る温州蜜柑を見つめる。そこへ、理奈が頭を下げた。


「これ以上、迷惑をかけるわけにはいきません。私のことは、そっとしておいてもらえませんか?」


「そうはいかん」


 眼光鋭く応じる名坂警部補である。


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