第36話 モノ語り
相談事があると言われ、猫柳理奈の部屋へのこのこと上がり込んだ五郎である。潤んだ瞳で見つめられては抗えぬ、と言いたいところだが、まったくもって左様なことはなく、あくまで五郎の妄想である。したがって、やれたかも委員会への申請は即日却下だ。
ぼうっとして、どうしたの? と首を傾げて理奈が語るは、とあるモノ語り。
この話は語らない方がいいのかもしれない。聞いてしまえば、巻き込んでしまうのかもしれない。かまわない? 乗りかかった船だから?
ありがとう。そうね、どこから話しましょうか。私自身のことも含めて話した方が良いかしら。
私が生まれ育ったのは淡路島の鄙びた漁村で、いまでも祖父が元気に暮らしています。住む人も潮風も優しい素敵なところだけど、母さんは、そんな田舎くさい空気に耐えられなかった。
両親と大喧嘩の果てに家を飛び出した。がむしゃらにバイトをして、勉強をして、奨学金をもらいながら大学を出て、いまは大阪で弁護士をしています。どうあれ自分の力で身を立てた生き様は尊敬してるけど、一方で、母さんは私を産み落とした。
結婚もせずに子供を産んで、誰が父親かもわからない。と言って自分では育てられないと祖父母に私を預けた。ここでまた大喧嘩とはならず。
経緯はどうあれ、祖父母は私を可愛がり、大事に育ててくれました。母さんから金銭的な援助もあって不自由を感じることはなかった。でも、思い出したように顔を見せる母さんが、禁忌を破ったのです。自由奔放で合理的なあの人らしく、村の言い伝えを馬鹿にして、挑むように、わざと。
村には七人様を祀る行事があって、役目の割り当てがあるの。割り当ての年は毎月のお供えをして、師走には感謝を込めて御膳を捧げる。箸も椀も、座布団から酒に至るまで、きっちり七つでなければならない。少なければ不漁不作、流行病に見舞われる。また多ければ子供を失うとか。




