第35話 委員会
なぜ、こんなことになったのか。緊張の面持ちの五郎である。
理奈のマンションに招かれて、綺麗な女性とほぼ二人きりの状況にどぎまぎしていた。ほぼというのは何故なのか。まず一匹は、黒猫のジジ。五郎を見張るように、じーっと見つめている。
さらに、もう一匹。
もう一匹ってなんや!と怒ってきそうだが、五郎に取り憑く温州蜜柑だ。まだらに鱗や毛が生えた奇妙な蟲のような格好をしているらしいが、いまは小さなくまのマスコットに宿り、ちょこんと座っている。
へ、へっくしょい! ちきしょうめ!
と、おっさんくさいクシャミをして鼻をこする。どうかしたかと五郎に問われ、
「なんや鼻がむずむずしてな。誰ぞ、わての噂でもしとるんやろか」
「三姉妹と俺しか知らんのに?」
「もしかして、わて、動物アレルギーとちゃうやろか。繊細やさかい」
「誰が繊細だって?」
あきれたように応じる五郎の前に、涼しげなグラスに入ったアイス珈琲がすっと置かれた。暑かったでしょう、どうぞ、と勧めながら、マンションの住人である猫柳理奈が五郎の前にすとんと腰を落とした。短く伸ばした黒髪と白い肌が目にまぶしい。初夏に相応しい薄手の黒いドレスから覗く華奢な腕と脚は、とろりと暑さに溶けてしまいそうだ。
詳しいことは家でと言われ、のこのこと付いてきた五郎だったが、家人がいるどころか、さして年も変わらない二十歳前後の女性の一人暮らし。お洒落なガラステーブルを挟んで向かい合うのは、どきどきするものがある。
六畳一間の文化住宅と比べれば何倍もの広さで、リビングに隣接する小部屋には電子ピアノや電子ドラムも置いてある。清潔な香りと整った部屋の雰囲気に、すっかり呑まれてしまっていた。
理奈は悩みを抱えているようだし、もう少し何かあれば、やれたかも委員会に申請できそうな気もする。と、身仕舞いを正した理奈が思いつめたような目で五郎を見つめ、細い腕を伸ばして手を取った。潤んだ瞳で見つめられては抗えぬところ……。




