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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第1章 きみの湯
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第24話 酔っ払い


 ぼーん、ぼーん、ぼーん。


 古い柱時計が時を告げる。きみの湯につながる稲田家の居間では、卓袱台ちゃぶだいに並べた夕飯を前に、美琴と葛音が五郎を待っていた。


「遅いね」


 美琴のつぶやきに返事はない。壁にもたれて雑誌を読んでいる葛音は黙々とページをめくっている。この間の一件から、なんとなくギクシャクしていた。


「様子を見にいこうかな」


 チラリと葛音の様子を窺うが、すぐには何も言わず、少し経って応じると、


「行けばいいじゃないか」


と、雑誌から目もあげずに言った。美琴は、そっと溜息をついて立ち上がったものである。


 ちょうどその頃、ぼちぼちと稲田家へ向かおうとしていた五郎は、自宅でちょっとしたトラブルに巻き込まれていた。


 酔っ払いである。


 突然、酔った若い女性が入ってきたのだ。入ると同時に、畳の上に大の字になって寝転がった。よく見れば、先日、バイクに乗って出て行くのとすれ違った姉ちゃんだった。今日はライダースーツではなく、ジーパンにTシャツのラフな格好である。


 どうやら部屋を間違えたらしい。この文化住宅では、階上の部屋の入口も階下にあり、すぐ階段という奇妙な作りなのだ。だからと言って、そうそう自分の部屋を間違えるものでもない。それだけ酔っているということだろう。介抱しようとする五郎に女性が抱きついてきた。いまひとつ呂律の回らない感じながら、りな、りな、と誰かの名を呼ぶようにする。


「なんでやめるなんて言うんだ。ずっと一緒にやるって言ったじゃないか」


「ちょ、ちょっと、やめてください。部屋を間違えてますよ」


「なんだとぉ、間違いだとぉ。あたしと一緒にバンドをやるのが間違いだっていうのか! 違う! 間違いなんかじゃない! 次で終わりなんて嫌だ。あたしは、あんたを離さないよ」


 絶対に逃さないとばかりに、ぎゅーっとしがみついてくる。悪くない気分の五郎だったが、その時、五郎さん、とよく知る少女の声が聞こえ、開けますよ、とドアが開いた。


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