第20話 大冒険
きみの湯でのアルバイトにも慣れてきた五郎だが、それ以上に入り浸っているのが蜜柑である。賄い飯を食べに来る五郎と一緒に訪ねてくるのだ。
夕餉の時間は午後七時ころ、浴場清掃のアルバイトは午後十時ころと半端な時間のため、五郎は、いったん帰宅して大学の課題をしたりしている。一方、用事のない蜜柑は、そのまま居座ることとなっていた。
時々は番台で月子さんと、たいていは稲田家の居間で美琴や葛音と過ごす。勝気な葛音とは喧嘩になることもしばしばだが、不思議と険悪でもない。美琴と一緒にいることも多く、楽しく過ごしていた。
その日も、アルバイト前に五郎が蜜柑を迎えに来た。保育園のお迎えのようでもある。
「お、五郎。いまから風呂掃除か」
居間の卓袱台に座って談笑していた蜜柑が楽しそうに声をあげる。美琴も、にこにこと五郎を出迎えた。少し離れて、葛音も居間で過ごしているが、ぶすっとした表情で壁にもたれていた。
「ほな、寂しがり屋の五郎が来たで、そろそろ行くわな。そうそう、今日は美琴はんに歌を教えたったんやで。わての十八番、金太の大冒険な」
「……あほか」
「なんや、あほて失礼な。ぎなた読みという高度な技法を織り込んだ名曲やぞ」
「いや、そうかもしれんけど。なんで、よりによって金太の大冒険なの?」
「楽しいやんか」
とのやりとりを見ながら、歌の一節を、楽しそうに美琴が口ずさむ。
「ちょ、ちょっと、美琴ちゃん? わかって言ってるのかな? 他所では歌わないでね」
言われて小首をかしげる美琴である。
「み、みかんの声は、わ、わたしにも聞こえるの。おしゃべり、楽しいよ」
「そやで。耳の聞こえへん美琴はんにも、わての声は届くんや。それに、綺麗な姫さんを助けて冒険する歌がなんかあかんのか? あかんのやったら、その理由を言うてみい」
「むむ、確信犯か」
困惑する五郎をみて、けらけらと笑いながら金太の大冒険を歌い始める。美琴も後について楽しげな合唱だ。問題のサビにかかったあたりで、それまで黙って聞いていた葛音が卓袱台を叩いた。
「あほな歌を歌うなよ!」




