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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第1章 きみの湯
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第16話 馬子にも衣装


 ちょっかいを出しに行った蜜柑が軽くあしらわれて逃げ帰ってきたところだ。よしよしと宥めつつ、五郎は凛とした立ち姿の葛音に見とれていた。


「なんだよ?」


「あ、いや」


 もごもごと口籠もる五郎の肩に飛び乗り、蜜柑が耳元でささやく。みとれてもうたんやろ? こんな時は馬子まごにも衣装っていうんや。


 馬鹿正直に、そのままいう五郎である。


「えと、ま、馬子にも衣装とか」


「意味わかってんのか?」


 イラッと来た様子の葛音だが、蜜柑は、もうひと押しとばかり、あほなことを吹き込もうとする。わかっとるっていうんや。鬼瓦にも化粧っていう言葉もあるでぇと。だが、聞き返されて思わず声に出していた。


「だーかーらー、鬼瓦にも化粧! どんな不器量でも、化粧で、そこそこ見られる顔になるって意味や。はっはっはっ〜」


 気持ちよく笑っていたところ、小さな体を掴まれて、ぽいっと放り投げられた。その先には、今時は珍しい蝿取り紙だ。天井からぶらさがるそれにくっついて身動きがとれない。


 蜜柑を放り投げ、パッパッと両手を払う葛音の後ろから、同じく巫女装束の美琴が姿を見せた。照れたように頭を下げるが、五郎の方は頭を下げることも忘れて見つめると、


「綺麗ですね」


と落ち着いた口調で告げた。


「なんか扱いが違うことねぇか」


 ムスッとした表情でつぶやく葛音の頭上では、蝿取り紙にくっついて動けない蜜柑が、


「なんでもええで、誰か取ってぇな」


とぼやいていた。葛音が軽く叩くと、蝿取り紙はくるくると回り、限界まで行って今度は逆回転だ。黄色い電灯の下で、いつまででも回り続けるようなアンニュイな雰囲気である。蜜柑の叫び声を除けば。


「やめて、やめて。酔うがな。ええんか? はよ止めやんと吐くで。くるくる回りながら吐くで。えげつないミラーボールになるで。汚いレインボーになってもええんか? 頼むで、はよ止めてぇな!」


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