表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第1章 きみの湯
13/166

第13話 きみの湯の秘密


 五郎は今日もせっせと風呂磨きだ。閉店後の清掃作業は意外と重労働だが、


「いつもおつかれさま」


と声をかけられるだけで報われる。ただ、ほんわかした月子さんにしては珍しく、


「ちょっとぐらい遅くなってもいいけど、日が変わる前には終わらせてね」


と折に触れて釘を刺された。


 遅くなると近所迷惑だからかな、と深く考えることもなかったが、その日は大学の課題をしていて始めるのが遅くなった。

 さらに排水口が詰まるわ、風呂桶が割れるわ、洗剤が切れるわで、どんどん遅くなり、すべてを片付けて帰る段には日も変わりかけていた。


 ちっ、チッ、ちっ、チッ……


 古い壁掛け時計が律儀に秒を刻み、出てくることを忘れた機械仕掛けの鳥も鳴き始める。


 ぼーん、ぼーん、くるっくー、くるっくー


 日が変わってしまったなと思う五郎の耳に、ごぼごぼと水のあふれる音が聞こえてきた。普段から聞いている掛け流しの音ではない。浴場から脱衣所にむかって大量の湯が流れでていた。あれよあれよという間に膝まで湯につかった。排水口が詰まったのか? それにしたって……


「こんなに勢いよくあふれでてくるわけがない」


「そや、なんかおかしいで!」


 ぴょんぴょん跳ねて蜜柑が肩に飛び乗った。


「五郎はん、外へ逃げた方がええ」


「言われなくてもそうするよ!」


 とはいえ、すでに腰まで湯につかり、自由に身動きできないでいた。そのうちに湯は胸元まで届き、立ち泳ぎのようにしながら出口へ向かうが、鍵など閉めた覚えもないのに戸が開かない。溜まった湯も外へ出て行く気配がなく、一気に水かさが増し、喉元まで、さらに必死に戸を叩く両手も飲み込んでいった。


 熱く独特の味わいをもつ液体が、ごぼごぼと侵入してくる。自分の名を呼ぶ蜜柑の声に混じって、祭囃子まつりばやしのような音が響いては消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ