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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第1章 きみの湯
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第12話 モンゴリアンチョップ


 通り土間の左手に仏間、右手に居間だ。そこに三人分の夕食が用意してあった。ごはん、味噌汁、焼き魚、漬物、煮物と特別なものではないが、五郎からすれば御馳走である。


 不機嫌そうな葛音とは対照的に、笑顔の美琴が温かく迎えてくれた。くつろいだ普段着姿に癒される五郎だったが、


「おい、パオーン! じろじろ見るな。美琴に手を出したらぶっ殺すぞ」


と、愛称〈?〉で呼ばれて脅しを受けた。悲しく思うも蜜柑の口の悪さに慣れている五郎は、さして気にすることもない。三人での夕餉となった。


 ぶすっとした表情の葛音はもちろんのこと、どことなく嬉しそうな美琴も黙ったままだ。気まずい雰囲気でもないが、口を開いたのは五郎だった。


「月子さんは一緒じゃないの?」


 返事はなく、何か問われていることを察して、美琴が口を開きかけて黙り込み、葛音の方を見た。その視線に促されて短く答える。


「姉ちゃんは番台があるからな。夕方には食べ終わってるよ」


「そうなんだ。ご両親は?」


 問われて、箸を咥えたまま葛音が黙り込んだ。再び美琴に促され、不機嫌そうにいう。


「健在です! お前に関係ないだろう?」


「そうだけど、姉妹だけで不用心だなって」


「お前みたいな奴に注意しないとな」


「なはは、大丈夫だって。ところで、ごはん美味しいね。誰が作ったの?」


 問われて答えず、黙々と食べ続ける。そんな葛音と、答えを待つ五郎を見比べて、美琴がいう。


「こ、交代で作ってます。きょうは葛音だよ」


「え?」


 意外の感があって、思わず声に出た。聞き咎めて、不服そうに葛音が応じる。


「え? ってなんだ?」


「あ、いや、意外だなと」


 配慮もくそもない正直な感想を伝えたその時、前触れなく、箸先の煮物が消え失せた。犯人は、五郎に取り憑く自称式霊だか神様の温州蜜柑である。飲み食いする必要はないのだが、時々つまみ食いをする。神様にしては、ちょっと意地汚い。


 胸ポケットに収まって人形のふりをしている蜜柑に、五郎がこそこそと文句をいう。


「勝手に人の飯を食うなよ」


「わても食べたいやん。美人姉妹と和気あいあいしおって。人形のふりはつまらんわ」


「そりゃ、わかるけどさ」


 こそこそ話の五郎に、葛音が訝しそうにいう。


「さっきから、ぶつぶつと気持ち悪いな」


「あ、いや」


 なんでもないと続けようとした五郎を遮って、蜜柑が声をあげた。


「葛音はん、かわいいなぁって話や」


 と言っても、その声は五郎にしか聞こえない。だが、不意に立ち上がった葛音は、


「だまれ! パオーン!」


とモンゴリアンチョップを放つと、食事もそこそこに顔を赤くさせて部屋を出て行ってしまった。再び首をかしげる蜜柑である。


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