総合課って地獄じゃない!?
ものすごい演舞が終わったが、勝者である重剣持ちは息一つ乱すことなく重剣を地面に突き刺して立っている。
すると、観客の中から片手剣1本を持った生徒が近づいていった。
演舞は、闘技場の中心にある台座の上で行われており、直径で15mくらいだろうか。結構大きな円形。
どうみても1つ上の上級生である男性が制服姿のまま壇上に上がった。
だってあの人見たことあるもん。
リンク王子だ。
先ほどの盾と剣を装備していた生徒よりも小さな片手剣のみを肩に乗せて、重剣の生徒と対峙する。
周りがざわめいている。
どうみても演舞の内容に含まれていないでしょ。これ
「あ、あれ……? あれリンク王子様じゃないですか?」
イオネちゃんも気づいたのか、心配そうに見つめている。
「シルに聞いたんだけど、リンク王子って武勇で有名なんだって。よほど自信あるんじゃない?」
「そ、そうだとしても、あんな装備であんな大きな剣の一撃でも貰ったら、王子様死んじゃう……んじゃ……」
「演舞なんだし、相手が手加減してくれるでしょ!」
ボクがそう言うと、重剣の生徒が地面から3mは飛んでいそうなところまでジャンプし、リンク王子に向かって重剣を振り下ろしている。
いや、あれだめでしょ! あれ死んじゃうやつじゃん!
思わずイオネちゃんと二人で目を逸らす。
キィン
先ほどの演舞の時とは打って変わって、甲高い音が響いた。
怖くて目が開けられない。
すると、5秒ほどしただろうか?
ガシャン!
と何かが落ちてくる音が聞こえる。
何が起きたのか? さすがに見てみないわけにもいかない。
リンク王子は生きていた。
安心する。
イオネちゃんは顔を覆ったまま震えてしまっている。
「い、イオネちゃん。大丈夫みたいだよ」
ちらっとボクの顔を確認した。
顔が真っ白だ。
リンク王子は一歩も動いていない。
その目前に、大きく飛び上がった上級生が跪く形で固まっている。
手に重剣はない。
大きくジャンプし、振り下ろし、着地した
そのままの格好なんだと理解する。
あの重剣が、跪く生徒の遥か後方に転がっていた。
「うーん、さすが王子、お見事だね」
重剣を持っていた生徒が立ち上がりながら言葉を発した。
「王子に向かっていきなり殺す気でくるとは、なんつーやつだ。ちょっとは手加減をしろよ」
まるで死ぬ危険など感じていなかったようにリンクがへらへらと返した。
「リンク王子ってもしかしてめっちゃ強いの?」
イオネちゃんに聞いてみる。
「さ、さぁ……? 私もお会いしたのは昨日が初めてなので……」
すると、人ごみの中から見知った人物が近づいてきた。
「当たり前じゃない。一応あいつ、2歳だか3歳の頃からこの国の騎士団長クラスとずっと特訓してるのですもの。まぁ、今のはやりすぎですけどね」
シルだ。
「あれ? シルここにいたの?」
「ええ、あの馬鹿王子のお守りみたいなものよ。全く。手綱を握ってても無駄だったけど」
はぁ、とため息をつきながらリンク王子を見ている。
「貴女たちこそ、兵科に体験履修なんて珍しいじゃない。兵科に女性なんてとっても浮いてるわよ? 特に貴女たちみたいな可愛い子たちは」
この場合のシルの可愛いは、外見のことではない。
兵科にも女性は少なからずいるが、その女性は例外なく戦士めいた体型をしている。
女性なりにかなり筋肉があるような方や、獣人でぎらぎらした方など、先ほどの演舞で目を逸らしたのは多分、この場でボクとイオネちゃんの二人だけだっただろう。
「う~ん、でも兵科って冒険者訓練もあるんだよね? ボク、さっきのあれは絶対できる気がしないけど、冒険者ってちょっと憧れてて」
「ああ、なるほどね。総合課。総合課の体験履修は基礎訓練よ? ほら、向こうで走りこんでる彼らよ」
汗だくになった20人くらいの隊列が、ずっと闘技場をぐるぐるしている。
ここに来た時からずっとだ。
最初は40人くらいいた気がするけど……
あ、一人脱落した。
「あはは、た、大変そう……」
「ま、確かに私を含め、基礎体力は必要よね。よかったら貴女たちも一緒に総合課、履修しない?」
ボ、ボクはいいけど、イオネちゃんはさっきからずっと涙目でかわいそうだ。
「ボクはいいけど、イオネちゃんは無理してやることないよ?」
「い、いえ! 私もがんばりますっ!」
だ、大丈夫かな……?
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