後編
完結です。桜月史上珍しく早いです(笑)
あの日は、海斗が珍しく呑みに行くから遅くなるよ、と言われた日だった。
見た目も中身もチャラチャラな後輩のチャラ男が、真っ青な顔で相談があると海斗を頼ってきたのだと。さすがにスルーは気が引けると、渋々だが出かけていった週末の夜。
相談とか面倒そうだなぁ、と仏心を出して口直しのお酒とツマミ、夜食を用意して待つも帰ってこない。朝帰りか? そんなに深刻な相談なのか、とメッセージを入れて寝た。熟睡した。超安眠した。なんなら後輩とやらを拝んでもいいと思うくらい、素敵な朝の目覚めだった。その時は。
そして気づく。海斗が帰ってない。マジか。
動揺して心配して、段々怒りに変わり始めた昼近く、ようやく海斗が帰って来た。出迎えるなり玄関で土下座。……なにやらかしたと視線が凍った瞬間。嘘偽りなく洗いざらい吐き出された事実に頭痛がしたのは気のせいじゃない。上がってすぐにおちる怒りのバロメーター。怒り続けるのには気力が必要だとしみじみ思う。
さらに、身の潔白を証明するために、知り合いの病院に駆け込んだことも診断書と合わせて報告されたあたりでもう。なにやってんだよ海斗。用意周到とかそっちにいくものだっけ? しかもその手の診断が女性のだけじゃないとか、初耳だったよ。
普段ならありえないその隙というか鬼の撹乱というか、どうしたんだ海斗! とか思ってたら月曜から出張だと。報復しようにも会社に行けない。このあたりで海斗は半分壊れてた。どす黒いオーラが見えた。そっと目をそらした。
そっか、海斗いないのか。……いないのか。なら、私が報復してもよろしいんじゃないの? 旦那コケにされて黙ってたら女が廃るわとばかりに、舞台を整えるためにマイPCに向かった。
ねえねえ、と後ろをうろうろする海斗はスルーした。ちょっと素直に話せる気がしなかったから。だってさぁ、いくら未遂で操は死守したとはいえ、ねぇ。まぁ複雑な乙女心がね、うん。
きゅーん、くーん、と悲しげな鳴き声と耳としっぽがぺたりと伏せた海斗の幻が見えた気がしたが、気のせいだそうに違いない。
そんな鬱憤をはらすかのごとき勢いでざまぁのシナリオは組み立てられた。美魔女お姉さまとかの参戦がこのあたりで確定、皆さま思うところがありまくりだったらしい。
そして、月曜の食堂につながるのである。
こうして、月曜の朝マッハで駆け抜けた、神田夫婦が結婚してたと思ったらいきなり離婚だとよ!? という噂は昼すぎに音速を超えて嘘だったと広まった。
その後、神田夫妻に触れたら祟りが起きる、とかなんとか言われ、さらに魔神より魔女王を怒らせると会社規模で災害が発生すると言われた。なぜだ。しないよ? ウイルスとか送らないよ? 後が面倒じゃないか。誰が処理すると思ってるんだ。……やらないよ? 会社のPCには、ね?
これを後日談としていいものか悩むところなんだけど。
あのおバカニュータイプ達は、あれだけの騒ぎを起こしたということで左遷された。社長が婚姻届の保証人欄にサインするというオマケ(?)つきで。もう面倒なのはふたりまとめてしまえとなったらしい。
ニュータイプのお腹の子は、マジで不倫相手の子らしいが、相手はそれを否定して拒否。男のくせに責任も取れずになにやってやがると社長となぜか海斗が殴り込み(お話し合い)に行った。
それにより、相手の素性もバレた。
よりによって和泉グループ傘下の子会社に勤めるチャラ男とは、肩書きに騙されたなニュータイプ。父親が本社勤務の部長だとかで、えらい羽振りよくナンパしまくってたらしく、今もしまくってるらしい。
父親が示談でもって火消しに走ったが、迷惑を被った私の怒りが収まらず、本社社長である和泉氏に(女である。実は知り合い、つか友人)にドカンと情報を放出。ついでにあちこちの会社に勤める友人達(とその周り)に乙女ネットワークで拡散。
ほうほーう。と友人の瞳がキラリと光ったので、きっと楽しいことになるに違いない。和泉グループは女性のための育児休暇とか保育所とかの福利厚生が充実しているくらい、女性社員を大事にしてるから。
それは後から報告してもらう予定。楽しみだ。
ふたりは会社を去る前に、海斗に謝罪しようとしたらしい。が、とりつく隙さえなく撃沈。心折れるレベルの完全スルー&隠密スキルを発揮されて逃げ続けられたようだ。
そらなぁ、とりあえず謝っとけ、で許してもらえたらまた仲良くしてねあれこれ助けてね、な願望が透けてないんだもの。堂々と顔に書いてあるんだもの。会うのもイヤだよね、あれは。
結局、ニュータイプも幼馴染みくんも同類だったってこと。それはあの「海斗を譲れ」発言からも明らかだし。ゆとりとかそんなので括るつもりもないけど、先輩や上司を敬う気持ちはそこそこ必要だと思うわけで。
「敬う気持ちがあるならあんなことしないだろう?」
「確かにそうだけどさー」
「あれはもう、一度デカイのやらかして責任とらせないとわからないよ。いや、それだけじゃ理解しないかな」
「海斗、笑顔が怖いよ」
てか、なにした。
「え? なにもしてないよ? ただ、こんな夫婦がいるよ、気をつけようねって話しただけ。だってふたりがかりで罠に嵌めようとしてくるんだよ? 怖いじゃないか」
それで嵌められたわけだしねー。言わないけどさ。怖いじゃないか! 誰が? え、聞きたいの?
「テンこそなにしたの?」
「え、聞くの? 聞いちゃうの?」
「さすがにプロの手は読めなかったからね」
確信犯か。いや、確かにしたけど。
「……彼女の端末にちょっと、ね」
たいしたことはしてないさ。ただ、ちょっとあちこち経由して乙女ネットワークにニュータイプの交遊関係流しただけさ。痕跡は残してないから証拠はない。
史上まれにみる黒歴史だとかで、ネットで祭りが起きていた。うわ恥ずかし。
乙女ゲームも真っ青な逆ハーを形成していたニュータイプは、そのピラミットの頂点にいたお腹の子の父親と結婚するつもりだったのが、あてが外れて捨てられた挙げ句、取り巻きだった逆ハーの男達も波が引くようにいなくなり、理想の結婚相手を誰一人捕まえられなかったニュータイプは、うちの社の出世頭に目をつけたのだった。
てなことがネットで全部流れてしまったのさ。しかもその捕り物が大失敗したことまでも。ざまぁというかぷぎゃーというか自爆による自爆。
幼馴染みのチャラ男を脅して共犯者にしたのも、海斗の部下だったから。真っ青な顔で相談にきたのはあながちウソじゃない。失敗したら自分の秘密がネットに晒されると脅されたら、誰でも血の気は引くだろうし。ネットに晒されたものは二度と消えない。これは誇張じゃないからだろうね。
結局幼馴染みくんも自分がかわいいのだ、自分のためにニュータイプへ手を貸したにすぎない。ニュータイプに愛情があったかと言われたら、どうなんだろう?
好きだろうと嫌いだろうと入籍したものは取り消せない。離婚はできるかもしれないけど、ニュータイプが納得するとは思えない。最悪子供を盾に脅し続けるのかもしれない。
「……海斗」
「ん? ああ、子供は産まれたら実の祖父が引き取ることになったよ。今度は間違わないで子育てできるといいね」
言いたいことが伝わったのか、海斗からは簡潔な返事が返ってきた。それなら大丈夫かな。和泉氏の監視が入るだろうからまともに育つに違いない。
「で、テンはいつ病院に行くの?」
「ん?」
「きてないでしょ?」
ああ、やっぱり気づいてたか。てかそれでそわそわしてたの? だから隙だらけだったのか。
「病院には行ったよ。3ヶ月でした」
「ひとりで行っちゃったの……?」
「うん。海斗行きたそうだったから、罰になるかなと思って」
「うん……ちょっとショック」
「だろうね」
気が立ってたりヤキモキしたり気分が悪くなるとか、それが全て妊娠の初期症状だった。つわり自体は軽いのでまだまわりには気づかれてない。まぁ、海斗は近くにいたし関係者だしで気づいてたんだけど、罰ってことで教えなかった。
「これがほんとのざまぁ」
「あああぁぁぁ」
ほほほと笑う私と膝から崩れ落ちる海斗。カオスな神田家の夜は更けていく。
その後、子煩悩な海斗にふたりめこそ! と挑まれるのはちょっと先の話。
あ、泣き落としネタ入れるの忘れた。