第四十話 記憶のない魔王
「だめ。」
少女が静かに言うと、二体の黒い魔獣はその場で動きを止めた。
森は不気味なほど静まり返る。
騎士たちは剣を構えたまま、誰も動けずにいた。
レオンが少女へ問いかける。
「お前が……魔王なのか。」
少女は困ったように首をかしげる。
「分からない。」
「目が覚めたら、ここにいた。」
その答えに、一同は顔を見合わせた。
「どういうことだ……。」
ルークも信じられないという表情を浮かべる。
「何も覚えていないのですか。」
「うん。」
少女は小さく頷く。
「名前も。」
「どうしてここにいるのかも。」
「何も分からない。」
柚は少女の目を見つめる。
嘘をついているようには見えなかった。
「ねぇ。」
「本当に覚えてないの?」
「覚えてない。」
少女は寂しそうに微笑む。
「気付いたら暗い場所にいて。」
「さっき、目が覚めた。」
暁がルークへ目を向ける。
「古文書には、記憶のことは書いてあった?」
「……いいえ。」
ルークは静かに首を横へ振る。
「そこまでは記されていません。」
その時だった。
ドクン。
黒い霧が少女の足元から立ち上る。
少女は苦しそうに胸を押さえた。
「……あ。」
「苦しい。」
ルークの表情が変わる。
「離れてください!」
だが、その声より早く。
「ガアアアアアッ!!」
動きを止めていた二体の黒い魔獣が再び咆哮を上げた。
先ほどまでとは比べものにならないほど禍々しい魔力が溢れ出す。
「勝手に……!」
少女は驚いたように魔獣を見る。
「動かないで!」
しかし、魔獣は命令を聞かない。
「ガアアアアッ!」
二体は同時に柚たちへ襲いかかった。
柚は拳を構える。
「どうやら。」
「まだ終わってないみたいだね。」
暁も一歩前へ出る。
「ああ。」
「今度は本気で止める。」




