↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/75

地質調査の旅③

 ルベイユの町を出発し、三時間ほど馬車に揺られていると、辺りは畑へとその景色を変え始めた。

 ここからはラングレイ男爵の領地であり、町の周囲全体が広大な畑となっている。

 この町の主産業は農業であり、王都をはじめとして、ルーファス王国の大半の野菜をここで生産し、各地に運ばれていく。

 この国は、大陸では珍しく平地の多い国となっており、四季の恩恵を受けやすい反面、北からの冷たい風も非常に強い。

 その中で、ここラングレイ領だけは、北方の山脈が北風の盾となり、領地全体を冷風から守る形になっていた。

 そのおかげで一年を通して温暖な気候となり、作る野菜は季節問わず豊作となる。

 すれ違う荷馬車も野菜を積んだものがほとんどで、朝の時間も手伝って、各地へ向かう荷馬車とすれ違った。


 そんなラングレイの町に心惹かれながらも、馬車は畑の農道を通り過ぎ、一路洞窟へと向かっていた。

挿絵(By みてみん)

 馬車の中では、アイリスが魔道具師用の拡大鏡を目に付けて、昨日から預かっているミルシャの水晶玉を、寝る間も惜しんで調べていた。

 

「どう? アイリス、何かわかった?」


 水晶玉を調べているアイリスの拡大鏡を、ミルシャは興味津々で覗き込みながら聞いた。


「ん~……何度刻まれている術式を読み解いても、やっぱりただの発光玉にしか見えません」

「発光玉って、暗闇で投げるやつ?」

「そうです。 発光玉は魔力を込めて投げると、割れた瞬間、蓄積した魔力が光魔法となり強い光を放つ魔道具です。

 それと同じ効果が期待できる術式が、この水晶玉にも刻まれているのです」

「意図的に魔力を送ると強く光るけど、蓄積はされてないよね?」

「はい。 それは、もう一つの術式による効果です」

「もう一つ?」


 聞き返すミルシャだったが、そもそも術式が複数刻まれていることも知らず、熱心に聞いても理解はできそうになかった。

挿絵(By みてみん)

「この水晶玉には二つの術式が刻まれていて、一つは送られた魔力を光魔法に変換する術式です。

 淡くても光を放っているのですから、これは絶対に必要です。

 問題はもう一つの術式で、本来の発光玉は、魔力を水晶に封じ込める結界の術式が刻まれています。

 ですが……この水晶に刻まれた魔力封じの術式が、反転の呪文として刻まれているのです」


 聞いているミルシャは理解が追いつかず、瞳が揺れていた。


「ふふふ、つまりですね。

 刻む文字列を右回りから、左回りに変えることで、目的の効果を逆転することができるのです。

 防御結界魔法でたとえると、右回りの術式では、外部の攻撃から自分を守る結界なのに対し、左回りの術式では、結界の内側に敵を閉じ込めることにより、攻撃を外に出さないようにできます。

 その法則に照らし合わせて、この水晶玉の術式を読み解くと、内部の魔力を光として発光し、外からの魔力を中に入れないことになります」

「え? それじゃ、どうして光るの?」

「解らないのはそこなのです。

 この魔力結界術式では、人の魔力を遮断するほどの力はありません。

 そのため手に持つと、人の魔力が入って光るのです。

 でしたら、この術式自体不要のはずなのです。 なのに刻まれている……なぜ?」

「それが刻まれているから、乗せただけで光るということはない?」

「それは……考えられませんね。 そもそも、魔力の流れが逆なのですから」

「そっか~」



――もうすぐ到着いたします!



 時間を忘れアイリスの話に聞き入っていたミルシャ。

 御者の声に辺りを見渡し、いつのまにか森の中を進んでいることに気づいた。


「興味深い話だが、謎解きは帰ってからだな」


 カイが笑いながら言った。


「そうですね。 私もこれ以上は、文献を調べないと何もわかりません。

 王都に帰ってから楽しむことにします」

「その時はまた貸してあげるね!」

「はい」


 ミルシャは水晶玉を受け取り、鞄にしまうと下車の準備を始めた。


 しばらく馬車は進み続けていたが、激しい揺れと共に馬車は止まった。

 外を見ると、入ってきた森は深く暗くなり、馬車を導いてきた道は荒れ果て、これ以上は進めなくなっていた。

挿絵(By みてみん)

「すみませんが、ここから先は岩場が多くて車輪を壊しかねないので、徒歩をお願いしています」


 御者はそういうと御者台から降り、申し訳なさそうに扉を開いた。


「話は聞いている。 ここからは三十分くらいという事だから、問題なく歩ける」


 カイは御者に笑顔を見せながら、立て掛けていた大剣を背負い、手に荷物を持って外に出た。 それに続く三人。

 装備をしっかり体に固定し、正確な方角を確かめると、御者に手を振り歩き始めた。


 御者の言う通り、ここより先は道らしい道はなく、所々に突き出した岩が人の歩みに負担をかける。

 これでは車輪の破損はもとより、馬の負担も無視できない。

 四人は岩に足を取られないように、なるべく離れて自分の判断で歩き続けた。

 暫く進むと辺りの森が明るくなりはじめて、前方の木々の隙間からも光が差し込んできた。

 その変化を感じ、カイは歩みを止め皆の方に振り向いた。


「この先どうなるかわからんから、ここで軽く腹に入れておこう。

 いつものことだが、仕事の前は自分たちの持ってきた物を食べて、体調を調整しておいてくれ」

「わかったわ」


 ミルシャが返事をすると、その場に先日のお菓子の布を敷いて、皆で腰を下ろした。

 食べてから時間の取れる場合には、沢山食べても問題はないが、この後すぐに戦いが起きた場合、あまり食べすぎるのは思わしくない。

 自分たちが、動きやすいと思える食事と量が、体調管理に一番良かった。


「それとアイリス。 ここからなら、お前の索敵範囲に洞窟まで入るだろうから、念のため頼む」

「はい。 ――風探眼(ふうたんがん)」

挿絵(By みてみん)

 アイリスは目を閉じ心を静めると、精霊術を唱え、周辺一帯にゆるやかな風の流れを起こし始めた。

 その風は、アイリスを中心に回っており、半径で約一キロという広大な円になっている。

 そして、その風はアイリスの体の一部となり、何かに触れると、その形と柔らかさから判断することができた。


「特に危険な個体は居ないようです……。

 この先、丁度索敵にかかる限界の場所に山裾を感じます……。

 その山に亀裂らしきものがありますので、それが調査対象だと思います」


 これが風の精霊術を応用した、アイリスの使う索敵能力だった。


「ありがとう。 助かる」

「いえ」


 アイリスは精霊術を解き、カイに笑顔を返した。


「それじゃ、あたしも済ませちゃうわね」

「回復薬を作るのか?」

「うん。 森を完全に抜けると、薬草がなくなるかもしれないから」

「わかった」


 ミルシャは、持っていた鞄から空の容器を取り出し、精霊術を唱えると、回復薬の生成を始めた。


「うわぁ! この森凄~い! 薬草いっぱい生えてるよ!」


 ミルシャは水分を持つ物体を感じることができ、索敵程の距離は調べられないが、周辺の植物の見分けが可能だった。

 あえて現地で薬を生成する理由は、その薬がミルシャから一定距離はなれてしまうと、消滅してしまうためだった。

 これは薬に限らず、どの属性の精霊術でも、ある程度離れると消滅してしまう。

 そのため薬を作り置くことができず、怪我をしたときに瞬時に生成するか、こうして現地で生成する必要があった。

 今回のように洞窟の中に行く場合には、その場での生成は期待できない。

挿絵(By みてみん)

 カイの土の造形も同じで、たとえ土で家を生成しても、そこから離れると消滅してしまう。

 しかし、消滅を防ぐ方法もあり、生成した状態から物質変換させることにより消滅しなくなる。

 回復薬で言えば、服用して体内で魔力に変換されること。

 土の家の場合には、火を使い焼成することで物質変換される。


 火の精霊使いの場合には、それ自体に物質変換はないが、燃え移ることで精霊術とは関係なく燃焼が継続する。


 そして風の精霊使いは、何かを生成することはできない。

 だが、先ほどアイリスが見せたように、流れる風を感じることで、索敵する能力を授かっている。

 また、風を剣のように鋭利な刃に変化させ、鉄の扉程度なら容易く切り刻める。

 更には、周囲に暴風壁を作り、それに触れたものを切り裂く。

 風の精霊使いが一番冒険者に適しており、戦いに優れた能力を持っているのがわかる。


「これでよしっ!」


 数本の回復薬を生成し、瓶詰めが終わったミルシャ。

 蓋をしっかり閉めて薬を鞄にしまうと、その代わりに鞄の中からお菓子を取り出し、満面の笑みで食べ始めた。

 薄暗い森の中とはいえ、外で食べるお菓子はひと際美味しく感じる。

 時間にして三十分程度の昼食だが、仕事前の気持ちの整理には長くもなく短くもなく、それぞれの準備が整っていった。


「それじゃ、現地に向かうとしよう」

「うんっ!」


 四人は荷物を持ち、アイリスが探索した場所を目指し歩き始めた。


 日の光が足元を照らし始めた時、眼前には雲にまで届くような険しい山々が、その高さで威厳を示すように立ち塞がっていた。

 岩肌が見えるその山は、山脈の険しさをより一層際立たせる。

 そんな山々に見とれながらも、ミルシャ達は、目の前にたたずむ山に思考を奪われてしまっていた。


「あれは……山が割れているようにしか見えないぞ!

 ――入って大丈夫なのか!?」


 カイは、想像を遥かに超える山の亀裂に絶句した。

 目的の山は、険しい山々の続く手前に位置している。

 カイは、崩れてできた亀裂に、小さな洞窟が繋がっている程度だろうと予想していた。

 しかし、目の前に現れたのは、山頂から裾野まで真っ二つに裂けた巨大な山だった。

 それはまるで、神々の怒りが剣となって振り下ろされたかのように、山は裂けていた。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。