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国境線の戦い①


挿絵(By みてみん)


 姿を現したミダの足取りは、小国密集地帯デカードの国境線〝ネスト〟へ真っ直ぐ向かっている。


 ミダが現れたということは———シェインの存在を確認出来たということか?


 〝ネスト〟の周辺を見渡すが、彼の姿を視認できない。何処に身を潜めて居るのだろうか。


 いよいよ、〝銀メッキ〟との交戦が始まろうとしていのか———俺は待機している、この一秒、一秒が長く感じる。時間が、時の進みが緩やかになっているように錯覚する。


 俺は、———この〝感じ〟を知っている。


 思考が回りすぎて、余計なことを考えてしまいそうになる感覚。


 自身の感じている、体感時間の〝ズレ〟に違和感を感じると同時に、この時間が長く感じる〝感覚〟に覚えがある。


 それは、昨日の夜———コートの男と接触したタイミングだ。


 昨日の出来事を思い出すと、嫌でも考えてしまう———この〝感覚〟は嫌な出来事の前触れかもしれない。


 この胸の高鳴りを早く治めたい。そんな逸る気持ちを抱きながら、俺はミダの動向を注視する。


 『スーナテボ』に繋がる〝ネスト〟からは、大人数ではないが、『スーナテボ』へ転移する人と、それとは逆に『スーナテボ』から『』人の往来が幾らか見られる。


 そんな人々の中、紛れ込むようにミダの姿を確認できる。〝銀メッキ〟は一向に姿を見せない。


 ミダの姿を目視できてないのか…?俺はミダだと見分けはついたが、あまりにも自然に現れて〝ネスト〟に真っ直ぐ進む姿から、〝銀メッキ〟はミダだと認識できていないのではないか?


 そんな不安を抱いたが、———それは杞憂に終わる。


 〝ネスト〟まで、あと10メートルは切るであろう距離で———〝銀メッキ〟は現れた。


 何故、俺がその人物を〝銀メッキ〟と判断できたか、それは外見に見覚えがあったからだ。


 頭巾を浅く被り、左腰の辺りで帯刀した人物———姿を見せたのは、ミダが交戦した〝長剣使い〟であった。


 最も驚くのは、〝長剣使い〟が現れた方向だ。それは、なんと『スーナテボ』へ続く〝ネスト〟から奴は姿を現した。


 光の粒が、身体を構成している最中は気にならなかったが、構成し終わった瞬間———奴だと気付いた。


 つまり、『スーナテボ』から転移して、『サルテボ』に来たという事になる。


 長剣使いの姿を視認してか、ミダの足取りが一瞬重くなる———瞬間、長剣使いは帯刀した状態で自身の剣を掴み、鞘から抜かないまま———凄まじい勢いでミダに突進する。


 それは刺突の体制だ。———完全に虚を突かれた形となった。彼女の身体は、ビー玉をデコピンで弾くように、勢いよく数十メートル斜め後方へと吹っ飛ぶ。


 それにより、ミダは〝ネスト〟付近の比較的人通りの多い場所から、少し距離を離されてしまう。


 敵は恐らく『スーナテボ』行きの〝ネスト〟周辺を監視していて、俺たちの誰かが〝ネスト〟に接近したら『スーナテボ』から『カーテボ』に繋がる〝ネスト〟前で待機している仲間に連絡を入れて、〝ネスト〟側から奇襲を仕掛ける算段だったのだろう。


 当初の予定位置からは少しズレたが、そこまでの問題ではない。この場所が小国密集地帯デカードである限り、人通りの差はあれど何処も似たような地形———〝地面〟であるならば、作戦に支障は無い。


 予定位置がズレたので、シェインが〝認識阻害の術〟を使用した際に、効果範囲内に入りやすいように、潜伏状態で周囲への警戒を行いながら、少しづつミダの近くへ歩みを進める。


 ミダの様子を確認するが、吹き飛ばされた印象程の手傷は追っていないようだ。

 その様子を見て一安心した、次の瞬間———ミダは空に手を翳し、なにかを呟き始めた。


 ———来た!!あと十秒もしないうちに、国境線一帯に風が巻き起こる。


 俺はすかさず足を止め、国境線———〝ネスト〟一帯を監視する。


 黒い全身甲冑、もしくはそれに似た格好の人物を視認したら、俺はそいつの近くに行き———能力を発動する。


 突然———ミダの作戦を理解したのか、〝長剣使い〟が遠くに吹っ飛ばされたミダに向かって、今度は鞘から抜刀した状態で、再び刺突の姿勢で勢いよく突撃を始める。


 クソッ…!!何かないか…!!———俺の位置から〝長剣使い〟の攻撃を妨害しようにも間に合わない。


 もし、ミダが術を発動できても、その後〝長剣使い〟の刺突をまともに喰らうことになる。


 そうなれば、致命傷だ———作戦どころではない。


 いや、ミダはそれを理解しているはず。『術の発動は一度まで』そう語っていたが、キャンセルしないのは、それが原因か?


 だが、それは命あってのもの———〝何故、避けない?〟


 ミダは一向に、振り翳した自身の手を下ろそうとはしない。


 敵の刺突がミダに到達するまで、あと僅か———刹那、〝長剣使い〟の右後方から、とてつもない速さで剣が飛来し、奴の進路上に急襲する。


 ミダは〝この援護〟が来ることを分かっていたから、術の発動をキャンセルしなかったのか!!


 〝長剣使い〟は身体を捩り左方向へと急旋回した為、———その刃は脇腹の衣服を掠める程度にとどまった。


 「———シェイン・テリーズ……テメェ……!!!」


 そう、長剣使いに襲いかかった剣の持ち主は———シェイン・テリーズだ。


 シェインの左腕は止血した形跡があり、血がシミとなり左半身の衣服を赤く染めている———その姿は、かなり痛々しいものだ。


 そんな状態でも、彼はそのまま〝長剣使い〟の元へ駆け出す———と同時に空中を飛行した〝仕込み刀〟が、ひとりでにシェインの元へ引き寄せられる。


 自身の元へ帰ってきた仕込み刀を持ち替え、今度はシェインが長剣使いに向け強襲する。


 ミダの代わりに、シェインは奴と交戦するつもりだろう。


 長剣使いは、シェインの攻撃に備える為、彼の方へ体勢を向け身構える。


 「おぬしら———儂だけを狙えばよいものを、巻き込みすぎじゃ」


 いつもは穏やかなシェインの瞳に、俺は静かさの中に燃え盛るような怒りの感情を感じた。


 「テメェの左腕は俺が落としてやるよ!!」


 両者の得物、仕込み刀と長剣が交じわる時———予想外の出来事が起こる。


 二人の戦闘が始まるタイミングを、待ちわびていたかの様に、ミダの背後から双剣を構えた敵が襲来する。そして———彼女の首元へ目掛けて双刃で斬りかかる。


 ———だが、その存在を予見していたのか、ミダは正面を向いた状態で片手は上空に翳したまま、一つの刃をダガーであしらい———もう片方の剣は、それを持つ〝双剣使い〟の手首を掴み、致命傷になる首元から肩へ軌道をズラした。


 一連の動きは一切の無駄が無く、綺麗な身体捌きだ。ミダは手傷は負い肩から流血するが、ダメージは最小限に抑えたと言える。


 「女性に対して背後から襲うなんて、———卑怯者ね」

 彼女は双剣使いに向かって、そう吐き捨てる。


 「———ハッハッハッ!!卑怯者上等!賭けに出た甲斐があるってもんだねぇ」


 双剣使いは、ミダとシェインを尻目に高らかに笑う。


 もしかして———こいつら、『カーテボ』へ続く〝ネスト〟を捨てた!?


 相当なギャンブル、俺たちは逃走する為ならば、『二択』だが、先に進み帰路に着く為ならば〝スーナテボ〟行き『一択』だ。


 確率でいえば、三分の二で『スーナテボ』に到着する———〝銀メッキ〟は、そう予測して山を張ったのか!?


 俺たちが敵の数を読み違えていなければ、〝銀メッキ〟は可能性の高い方にフルベットしてきやがったことになる。


 次の瞬間———突風が吹き荒れ土煙が舞い上がる———しかし、空は晴天である。つまり、これはミダによるものだ。


 ついに満を持して、俺が提案した対『赫鞭セキヘン』用の作戦が実行される。


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