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2話 祖母

 俺が産まれてからは基本的に、祖母に育てられたと言っても過言ではない。

 というのも、祖母が父と母を遠ざけて、俺の側まで寄せ付けなかったからだ。


 この『祖母』というのは母方の祖母である。父方の祖母には会ったことがない。


 祖母は特に父と兄を嫌っている様子だった。


 2人の悪口を言うようなことは無かったが、王都から2人が帰って来た際には、俺と遊ぶ時間だったり鍛錬や狩りに出掛ける時間や行動に、制限を設けていたようだ。


印象に残っているのは、父は仕事の都合で家に帰って来れなかった時に、兄だけ王都から帰ってきた際のことだ。

 父が居ないので、兄と2人で林に鍛錬に行った時の出来事である。

 その日の鍛錬が終わったあとに、兄の王都での暮らしが気になって話を聞いていたら、決められた時間を過ぎて家に帰った時には、祖母は酷く怒っていた。


 声を荒らげることは無かったが、言葉の節々に凍えるような冷たさを感じた。その言葉はいずれも兄に対してのみ発せられた。


 こんな祖母を見るのは初めてで、深く印象に残っている。

 その一方で俺に対しては、何もお咎めは無かった。


 この日の夜に1つのルールが課された。それは兄に対して今後、俺と兄の2人だけでの外出を禁じるというものだった。


 兄はこのルールをすぐに快諾した。


 俺が6歳の時に、母からの座学で『言葉遣い』について学んだ。


 その時に、祖母の俺と父、母、兄に対する話し方の違いに気付いた。

 祖母はこれまで、俺に対しては『敬語』を使っていたのだ。

 これまでは父、母、兄で話し方が違うように、祖母独特の俺に対する話し方だと思っていたが、それは違ったようだ。


 それからひと月程、祖母の父、母、兄に対する会話を耳を立てて聞いていたが、敬語は使っていなかった。


『なぜ俺にだけ敬語なんだ?』


 心の中で疑問が湧いてきたが、祖母に直接聞く勇気は無かった。


 俺の中で疑問が湧いた日から、祖母の行動に注視するようになった。

 やはり祖母は俺に対しては、敬う様な態度だが他の家族にはそうでは無かった。


 祖母の行動に注視するようになってから、約1年後、俺が7歳の時に祖母が亡くなった。


 祖母の最後だが、朝の6時には必ず起きている祖母が、6時を過ぎても部屋から出てきていないことを母が不審に思い、母が祖母の部屋に入った時には、祖母は涼し気な顔で最後を迎えていたそうだ。


 家族が言うには、祖母は老衰で亡くなったみたいだ。

 前日まで、いつもと変わらない祖母だったが高齢者には、よくあることらしい。


 祖母の遺体は火葬される事になったが、火葬される前に、最後に祖母の顔を見ておこうと思い、祖母の体に掛けられた白い布を頭の部分まで、ゆっくりとめくった。

 だんだんと祖母の顔が露になる。口元まで布をめくった際に、俺は驚いてしまった。


 なんと———祖母の顔はうっすらと笑っていた。


 この時に初めて気づいたが、俺は産まれてから祖母とは毎日、顔を合わせていたにも関わらず祖母の笑顔を見たことがなかった。


 俺は、この瞬間に初めて後悔という感情を抱いたのかもしれない。


 祖母が生きているうちに、どんな人生を歩んできたのか聞いてみたかった。




 火葬が終わり、周りが落ち着いて来た翌日に、母に祖母の人生ついて話を聞いた。


 母も断片的にしか知らないらしい。祖母は自分の話をしたがる人ではなかったからだ。


 母の知る限りの情報では、祖母は21歳の時に母を産み女手一つで育てた。

 祖母は、交友関係が広い方ではなかった……と言うより、仕事関係の人以外と話している姿を母は見たことがないらしい。

 母は幼い頃に、自分の父親について気になり、祖母に聞いてみたが何度聞いても、その質問については何も答えてくれなかったそうだ。


 母は、夜中に目が覚めてしまい、祖母が夜な夜な寝言であることを呟いている事に気づいた。


『ごめんね……ごめんねレア。必ず守るから……』


 日によって言葉が多少違うようだが、こんな感じの言葉を呟いていたようだ。


 因みに『レア』というのは母の名だ。


 母に対して、何か罪悪感があったのだろうか?


 ひとり親なことに関してなのか……大戦が始まるまでは貧しかったらしいから、金銭面について不自由だったからか?


 いずれにせよ、今となっては真相は分からない。


 母は、この日を境に自身の父親については聞かないようにしたそうだ。


 その出来事から、およそ半年後に各国で戦争が起こり、祖母は忙しい毎日を送るようになる。


 祖母の職業についてだが、ざっくり言うと『占い師』だ。

 祖母は、そこら辺の占い師とは違い、軍事に役立つタイプの占い師らしい。


 先の大戦でも、終戦までバトメの防衛の要だったそうだ。

 母でも知っている有名な話だと、バトメの王都に暗殺者が侵入した際にも、祖母1人の力で暗殺者の特定を成功させている。

 因みに俺の生まれ育った、この家と周辺の土地も祖母の数々の功績のお陰で、国から賜ったものだ。


 終戦後は、祖母は占い師を引退して隠居暮しをしていたが、母が王都から父を連れてきて結婚話を持ってきた際には、血相を変えて反対したそうだ。


 母はかなり動揺したそうだ。祖母は承諾してくれると思っていたのが……まさか、反対されるとは微塵も考えていなかった。


 理由について聞いたが、「その人はやめなさい」の一点張りだ。


 祖母に否定されたからと言って、結婚をやめる母では無かった。

 そもそも、否定されたら止める程度の軽い気持ちで、結婚話をした訳ではないからだ。


 母は強行突破で、祖母の許可無しで王都で結婚をした。


 その事実を祖母が知り、2人の結婚を認める代わりに、ある条件を提示した。


 それは、祖母が住む土地……つまりは、俺が生まれ育ったこの土地で母が暮らすことだ。


 父は王都勤めというのもあり、母は父と月に数日しか会えないという状況になるが、母はこの条件を承諾した。


 俺は、こんな条件飲まなくてもいいのに……と思ったが、その思考を読んでか母は続けてこう言った。


 「母さんが、これで結婚を認めてくれるなら……断る理由はなかったの。私が小さい時から女手一つで育ててくれたのに、我儘で結婚してしまって申し訳なかったから………せめて、これくらいは言うことを聞かなきゃね」


 祖母の反対を押し切って、結婚したことへの後ろめたさ……ということか。


 「話せることはここまで!昨日は忙しかったから、今日は無しにしたけど、明日からは座学をやるから夕飯までゆっくり休みなさい」


 「はーい!」


 まだ聞きたいことはあったが、祖母について多少なりとも知れたので良しとしよう。


 それからは平凡な日々が続いて…………月日は流れて俺は10歳の誕生日を迎えようとしていた。


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