062:溢れかえるエネルギー、それでも足りない国立図書館
【コアルーム】
「悪の道に引き込まれそうです。」
「本を焼く者は、やがて人も焼くようになる」と言うが、散々燃料用として本を焼いた挙げ句、1万もの人命を呑み込んだダンジョンは潤沢にエネルギーをため込んでいる。普段は銀色で金属光沢があるダンジョンコアが虹色に光っている状態。
「でも、マリーさん、外征では、こんなメチャクチャな方法は使えないな。」
「マスター、そもそも外征でどんなに悪いことをしてもダンジョンエネルギーは増えません。植民地で手を切り落としたり、強制栽培で飢餓を起こしたり、反抗的な住民を大砲にくくりつけて吹き飛ばしたり、奴隷を船から海に捨てたところで、ダンジョンにとって全く無意味です。」
スターリンみたいに大粛清をすればダンジョンエネルギーは入手出来るが、住民の感情エネルギーが減るという副作用が大きく、人間牧場には向かない。もちろんダンジョンではなく国家であっても国力を毀損する悪手だが……。
「報復として筑波山を丸ごと自爆ドローンの大群で焼き払っても、意味は無い。ということか。」
「そうですね。それに、ダンジョン『から』遠征することは普通はありません。一般のダンジョンモンスターはダンジョンから出ることが出来ませんし、名前付きモンスターは数が限られますから。」
ダンジョンモンスターのスタンピードとか、ダンジョン同士の戦闘などは通常は起きない。ダンジョンの名前付きモンスターが冒険者を指揮して小規模ダンジョンを攻略することはあるが。
「なら、傭兵の大軍でも雇ってこちらから筑波に逆襲をかけて、住民を捕まえてダンジョンに連行し、生贄にする。という場合は?」
「マスター、『ダンジョン大百科』によると『石の神殿アスカ』は生贄を多用していますが、一般人を生贄に捧げても大したエネルギーにはなりません。正当防衛の範囲を超えていますし、やってきた海賊や武将を返り討ちにするのが一番効率的でしょう。」
「それにしても、今回溜まったダンジョンエネルギーは相当な量だな。」
「数値化出来ないのが面倒ですね。」
「また2層群くらい、いや、今度は10層群くらい図書館を増やせそうかな。」
本を焼くダンジョンで召喚出来る建物が図書館って言うのが、思いっきり皮肉。もちろん、洞窟を掘ったり石やレンガを積み上げてダンジョン構造物に指定することも出来るが、構造が単純な城壁程度ならともかく、居住施設となると既製品を取り寄せて使う方がはるかに早くて安上がり。
「10どころか、大型の自治体図書館を軽く20や30は召喚できそうです。必要なら、より高コストの大学図書館すら召喚できます。」
知名度が高く敷居も高い有名大学の図書館は、誰でも入館できる自治体図書館より桁違いに高くなってしまう。
「帝国図書館の召喚は?」
「さすがに国立図書館はコストが桁違いですから無理ですね。その国のあらゆる書籍を集積する、ある意味図書館召喚の終着点ですから。確かに収蔵数は億に近いとはいえ、第六層群(日本では蔵書数最大の自治体図書館)も第三層群(やや大きめの大学図書館)も約250万点なので、せいぜい30倍かそこらですが、召喚コストは今の全エネルギーでも足りません。倍なのか、10倍なのか。もしかしたら数%足りないだけという可能性もあります。あるいは、何か前提条件があるのか。」
帝国図書館は国立国会図書館と同じもので世界により名前が異なる。もちろん、建物の召還時には蔵書は無く、蔵書と同じ種類の書籍を別途召喚可能。図書館は同じ本を複数所蔵していることもあり、また本館を召喚すれば別館の蔵書も召喚可能なので、召喚可能点数は蔵書数とは異なる。
「なら、普通の図書館を集めるか。確か、背が高い方が世界のコアからの獲得エネルギーが多いんだったな。この際、召喚出来るだけ召喚して。」
「少しはエネルギーを残さないと非常時に対応できません。ただ、もうじき次の移民団が来ますから、層群を増やすのはそれからで良いでしょう。」




