061:後始末
【医務室】
「カスミさん、だったな。足を痛めただけだが、しばらく乗馬は、乗るのは良いが乗せるのはダメだ。」
サピエン先生は手早く栃栗毛の治療を済ませる。
「怪我で騎乗できない馬と若すぎて斤量制限のある馬……。か。某の馬はいつになったら。」
愚痴る騎士団長。
「そのうち尾花栗毛が大きく強くなったら。という以前に、私でも体重の問題で騎乗馴致が出来ないぞ。それこそマリーくらいだけど、馬に乗れるのか?」
ラージャは修羅なので体重は軽いとは言え、それなりに背が高く鍛えているので競馬の騎手より重い。なお、競馬なら騎手の男女で斤量が違うが、紫蘇(修羅)は実際には性別は無く、人間体はそれっぽく見えるだけなので体重だけが問題。(オオバシマムラサキなどは紫蘇科でも例外的に雌雄がある種類もある)
「確かに、いきなり重いものを載せる訳にも行かないからな。でも、気が強そうだし、悍馬の素質はありそうだ。」
すぐに腹を切るとか腹を切りなさいとか言い出す栃栗毛も大概気性は荒いが、尾花栗毛も気が強い。
「おじさん、落馬なんてかっこ悪いことにならないでね。」
わざと落とす気満々。動物の馬だと、尻跳ねしつつ頭を上げ、うまく旋回して騎手を落としたりするが、馬獣人だとどうするか。
なお、今回の遠征に栃栗毛・尾花栗毛姉妹以外の馬獣人は従軍していないため、別にマリーが親の敵になったりはしていない。
【天沼】丘陵の麓東側、谷の手前
黒焦げになった死体も何もかもダンジョンに吸収され、落下した野営地の地面も撤去され、ただ恩賞や傭兵や冒険者への支払いに用意された金銭のみが残されている。
「こりゃ大判小判ざっくざくだ。」
マリーの依頼で金銭を拾っている冒険者の右馬太夫が言う。せっかくの小判や銅貨をダンジョンに吸収させてしまうのは勿体ない。恩賞をばらまくにも馬を買うにも金銭は必要。
「でもよ、右馬太夫、これは俺達の同業者に配る物だったわけで、手放しで喜ぶ訳にもいかねぇ。」
「兵衞次郎、焼かれたやつらは仕事を選び損なった。ってだけだ。俺達冒険者には商人と違って組合も何も無い。自由だけど全ては『自己責任』、つまり自分の責任って訳だ。ま、俺も書記長さんがここまで徹底してやる悪とは見抜けなかった訳だが。」
悪といっても、容赦無いとか強いという意味も含む。
「右馬太夫が見抜けないのに、俺や左衛門太郎に分かるかって。そりゃ敵に容赦しないのは知っていたけどよ、百姓町人も女子供すら皆殺しなんてそうそう出来るものでは無いぞ。」
「でもこれ、筑波の殿様も家臣団も何もかも全部焼いてしまった訳だろ。首が無いってことは死んだと確認出来ないし、筑波の家は荒れるんじゃないか。」
妙に鋭い左衛門太郎。
「傭兵どもは稼ぎ時と飛んでいくだろうな。」
「違わない。で、弔い合戦やろうとして、また焼かれるのかね。ま、俺達は流れ矢喰らわないよう、東には行かない方が良い。サムライじゃあるまいし、死んだら犬死にだ。」
当面筑波には関わるまい。と決心する右馬太夫。
【ダンジョン前広場】
さすがに1万人焼き殺して平然と祝勝会をできる精神力があるのはマリーくらい。死闘を繰り広げた宿敵というのなら、浅井長政らの頭蓋骨を飾って大宴会した織田信長の家臣達みたいな例もあるが(髑髏杯というのは後世の誇張)、図書館都市ダンジョンの人々は筑波に対して特に恨みはない。
というわけで、今回はマリーが騎士団長や岡田太郎左衛門やハルナ達に金銭やダンジョンマスターの感状を渡して終わり。情勢が落ち着いてから、夏祭りか秋祭りでも開催する予定。
(明日は休載です)




