580:百万町歩
【岸の町】
岸はダンジョン南東10㎞、面積30k㎡。図書館都市ダンジョンの中心市街地は、将来に備え概ね20㎞圏に東京市程度の用地を確保しており、岸は最も近くにある国人領主領となっている。
「いよいよ、今年の米の作付面積は100万町歩、1,000万反なので公称1,000万石となりますね。公称『石高』は畑や屋敷も含むので2,000万石くらいになりますが。」
村の配置を進めている範囲は50万k㎡にも達するため、水田面積は2%。地形の制約などにより相当虫喰いに開拓をしている。
「とうとう100万町歩か。実にめでたい。」
マリーと応対するのは、国人領主筆頭にして武士団「岸団」惣領、岸播磨介。
「米の収量は推定1,500万石、年貢は帳簿上の石高の4割なので800万石の予定ですね。」
なお、江戸時代は石高3,000万石、米の収量は2,000万石・麦は800万石程度。
「関八州の米を食べる種族に関しては、十分すぎる量なのではなかろうか。」
「はい。米は事実上の通貨ですが、これを食べるのは人間と畜生の一部。あと、気に入らないことですが餓鬼も主食は米から作った酒ですね。ダンジョンからあまり遠くへ穀物を運ぶのは困難ですから、飢饉に備えた備蓄に廻す分を考慮しても十分でしょう。」
「たしか神官戦だったか……。じきに千里彼方の商都梅田まで米を運ぶことが出来るとか。」
「不本意ですが、地形と距離と量の制約で他に方法はありませんからね。作らなければならないのは、読書村から、不破関まで250里ですが、なかなか難しいですね。備蓄を毎年入れ替えることを考えれば、来年の冬には必要になるでしょうが。」
「果物は育つのに数年は必要として、あとは魚が欲しくなるか。」
「牛肉は人間が好みませんから、鶏を増やしていますが、このダンジョンで魚を養殖するのは困難ですね。ただ、飯沼ダンジョンからの輸入を増やすと、ダンジョンに入る冒険者が増え、獲得エネ……いえ、得られる力が増したダンジョンが銚子に乗って何かしでかす危険性があります。」
飯沼は総東端に位置する水属性のダンジョン。異世界の犬吠埼付近に相当する。
「魚を育てるには塩水が必要なんだったか。」
「厳密に成分を調整した塩水ですね。那須塩原に水を注ぎ込むだけではダメです。あと、増やすためには元になる生きた魚が必要です。ダンジョンの魚は生きていませんから。つまり、ダンジョン以外の池などに住む魚しか殖やせません。」
ダンジョンモンスターはダンジョンエネルギーで動いており、生きていない。
「そうなると、池に居る鯉や鮒くらいか。鯰はどうにも吉川一族に見えて食欲が湧かぬ。だが、池の魚は料理人の腕が悪いと不味いな。」
鯉などは技術のある調理師が料理しないと、泥臭くて食べられたものではない。
「魚は入手の問題がありますから、このダンジョンで優先的に増やすのは肉です。馬はサクラ、鹿はモミジ、猪はボタン、鶏はカシワ。このうち増やしやすいのは鶏で、年50~70個の卵を産みます。狐狸など獣人の一部も鶏頭が好物ですね。植物のケイトウではなくニワトリの頭です。」
江戸時代に牛は食用ではなかった。また、当時のニワトリは年300個も卵を産んだりはしないし、ムック本に卵など付いてこない以上、異世界の品種改良されたニワトリを入手も出来ない。
「植物の鶏頭なら人間も食べるが。」
異世界でも江戸時代には食用だったが、親類のホウレンソウの方が美味しいためか、異世界日本ではその後食用にはされなくなった。




