270:気球撮影
【那須塩原西方、図書館都市ダンジョン影響圏端】
図書館都市ダンジョン本体の真北、1,000km余り。ミントの分身の指示の元、冒険者達が手早く風船に水素を詰めてゆく。
気球が上昇せずに流されて丘の向こうへ行ってしまうと撮影データを受信できなくなるが、予定通り高度数kmまで上昇してくれれば、半径100~200kmを撮影可能。もし近くに町が見つかれば、冒険者を手配し必要な装備と共に送り込む。
【第三層群・管制室】
「さすがに、ラジコン飛行船は複雑すぎて断念した。」
体育館で飛ばすならともかく、航空偵察用はミントでも手に余る。
「白河の位置が分かれば大成功です。おそらく那須塩原に生贄を渡す方が早くて確実ですが、生贄用の海賊は枯渇していますから、那須塩原を通らない経路も必要です。」
「砂漠を渡ることを考えたら、遠いと無理がある。」
「街道なら1日10里も可能ですが、砂漠だと半分以下でしょうね。脅威が無いと確認出来るなら、簡易舗装で道を作るのも選択肢です。」
「それでは、気球を放つ。」
ミントがそう言うと、影響圏の端ではカメラをぶら下げた気球が空へと飛んでいく。
「映像の受信状況は良好だ。少なくとも村程度なら上空数キロでも確認可能なはずだ。」
「地下に潜っていたら分かりませんが。」
「奥州は冬は極端に寒いと思われるので、その可能性もあるか。」
「この地方、海がありませんからね。気候は大陸性になるので温度差は大きいはずです。」
「しかも緯度が高い。か。なにしろ奥州に関しては情報が乏しすぎる。」
「完全に那須塩原が間に挟まって情報を堰き止めていますからね。生贄を用意する。というのは難題ですから。民話なら英雄が生贄に偽装して悪いダンジョンを成敗する訳ですが。」
「例えばですよ、名前付きモンスターである側近書記殿が他のダンジョンの生贄に捧げられた場合、当然復活する訳だが、その場合、相手ダンジョンのエネルギーを奪って破綻させることが出来たりするんだろうか。」
「……。わたしは死ぬのは嫌ですから。それに、捕虜にされて延々とダンジョンエネルギーを吸い取られる。という危険もあります。」
「確かに。」
「それに、那須塩原の問題は、存在自体が悪という訳では無く、単に『通行の邪魔』というだけですから。むしろ潜在的に危険なシロアリダンジョンの方が要警戒でしょう。もっとも、巨大シロアリのようですから、ダンジョンから出てくる危険は少ないと思われます。」
「潰れるか。」
「ですね。普通サイズのバッタを繁殖させるダンジョンがあったら、その方が危険です。普通のダンジョンモンスターはダンジョンから出てくることはありませんが、ダンジョンモンスターではないトノサマバッタが増えると深刻な脅威になります。」
【第三層群・管制室】
気球は東に流されて視界から消えたが、それまでに撮影した画像によると、町らしいものは見当たらない。
「だいぶ山に遮られているが、概ね100km圏内に町や村は無さそうに見える。次は那須塩原の東側を確認しよう。」
「那須塩原の北側って800kmくらいありますから、両側100km圏内に町が無くても、あと600km残っているんですよね。」




