253:直訴事件
【第三層群屋上庭園】
「マスター、紫蘇(修羅)のみならず紫蘇以外の修羅も多数、遠く千里も彼方からも集まってきたということは、それだけ期待されている。ということですね。」
「水があるから。というのもあるだろうけど、やはりマリーさんが那須大膳大夫より期待されている。ということだろう。」
「那須塩原は茄子(修羅)しかいませんから比較はできませんが、期待には応えなければなりませんね。責任重大です。」
マリーは、まだダンジョンコアの操作には世界樹に直接触れないといけないが、会話程度なら1フロア下の屋上庭園でも可能となっている。庭園にはオリーブや柑橘類・イチジクなど地中海地方原産樹木の苗木や草花が植えられ、スペイン製の赤や白の椅子が置かれている。頭上の展望台からは春になり成長した世界樹の枝が見えている。
もちろん、図書館都市ダンジョンで入手可能な植物はムック本の付録などに限られているため、多くは商人から買い付けたもの。
「マリーさんが回復したのではなく、世界樹が成長しているだけかもしれない。」
「それだと、わたしがダンジョン影響圏内を自由に歩き回ることが出来るのは何年後になるのでしょうか。そもそも、世界樹ってどれくらいの大きさまで育つのでしょう。」
「神話なら天に届く高さ。だけど、そもそもこの塔自体が高さ60km以上あるわけで。でもダンジョンの世界樹は分からないな。」
「普通の森でもダンジョンの森でも、普通は、別に1本の巨木が君臨している訳ではありませんからね。丹沢ヒルズの中心と思われる蛭ヶ岳だって、ここから見る限りでは山頂に巨大な木が生えていたりはしません。」
「側近書記殿、今ダンジョンに滞在中の移住希望の修羅は全員、第34層群及びその周辺に集まりました。」
管制室のミントから報告が入る。
「では、録画した挨拶を流してから、ダンジョンの説明をお願いします。その間にわたしは34層群に向かいます。」
「マリーさん、動けないなら意味も無いような。」
「こういうのは、直接会う。ということが大切です。」
【第34層群・中庭】
マリーはアンが押す車椅子に乗って、まず文化会館棟の大ホールに登場。紫蘇(修羅)達の歓迎を受けた後、中庭、そして塔の外へ向かう。
地味な焦げ茶色の毛皮が多く服装も柿渋色や濃紺など地味な色が好まれる獣人と異なり、修羅の髪色は多彩であり服装も多彩。様々な種族の修羅が集まっているため、相当混沌とした状況。
ダンジョンにはモンスター21名・眷属54名しか居ないため、マリーの護衛は岸団と仙波家のサムライ達。その時、前方から桃色がかった白髪の女に見える修羅が、紙を持って駆け寄ってくる。
「紫蘇図書頭様に申し上げたき事がございます。」
と女? は言うが、当然護衛に阻止される。マリーも体が動かないので返事も出来ず、そうこうするうちに自分勝手なごく一部の修羅達が騒ぎ出し、マリーの車椅子をひっくり返す者まで出たので、アンと護衛達は這々の体で逃げ出す。




