230:世界樹!
【第三層群屋上庭園】
マリーはボンヤリと黒い空を見ていた。進むしか無いと言ったところで進む道は見えない。なお、空が黒いのは高度が高いため。ただしダンジョンの機能により気圧・気温・日光とも正常で紫外線も適度に遮られている。マリーの目は黒に近い青なので紫外線が強くても大丈夫だが、肌は色白なので大気圏外の紫外線が直撃したら大変な事になる。
(五里霧中……でも、このダンジョンは高さ15里以上あるから、例え5里が霧でも何か参考になるものがあれば。)
この第三層群には200万冊の本が、はるか下の帝国図書館には数千万冊の本が召喚されているが、今のマリーには読書も一苦労。視線では電子書籍の操作すら難しく、目も疲れる。
(わたし、すっかりニートになってしまいましたね。名前付きの枠は8つしか無いので、穀潰しの比企ニートに居場所はありません。でも自決すら解決策にはなりませんし。)
比企とは、この世界では図書館都市ダンジョンより北西方面、異世界では松山付近を指す。見沼は足立なので、ダンジョンマスターがニートになったら足立ニート?
(……何か、だんだんと考えもマイナスの方向に……。)
屋上庭園よりさらに上には展望台が乗っており世界樹が植えられているが、そこへは階段でしか行けない。
(世界樹!)
【第三層群屋上庭園】
「わたし いく うえ せかいしゆ」
「マリーさん、いきなり何を。」
「ちよくせつ つなく」
「え~と、順を追ってゆっくりと説明を頼む。」
(つまり、世界樹はわたしの記憶の一部を分担しているわけで、世界樹に直接触れた状態なら、この体の脳にあまり負荷をかけずに済むわけだし、何なら、ミントみたいに分身を作ることが出来たなら、それを動かせば良い訳で。……でも、なぜミントだけ分身を生み出すことができるのでしょうか。)
そもそも名前付きの紫蘇(修羅)の元になった植物で、地下茎で繋がった大株を作るのはミントだけ。
「要するに、マリーさんは世界樹の所に行きたいと言うことかな。」
「○」
「ただ、展望台は階段しか無いからな。マリーさん、歩けないだろ。」
「そこを なんと か」
「エレベーターを増築するのは一苦労だぞ。どこかの図書館からサイズが合うのを解体して搬入して組み立てないといけない。」
マリーは修羅なので骨がセルロース系であり、胃腸の代わりに単純な袋状の消化器官を持つため体重はかなり軽いが、それでも修羅が背負って階段を登るには重い。
(特別に馬脚を入れて人馬鞍を使うか……。でも、紫蘇(修羅)と眷属以外は中枢に入ることは出来ません。)
この地域の人間ならマリーより重い米俵を担いで歩くのは普通だし、馬や馬脚は米俵2俵を背負うが、普通の修羅にはそこまで筋力はない。
「いそく とき ここは」
「工事用エレベーターがあれば早いが、残念ながら入手出来ない。展望台への階段は10m程もあるし直線でも無いから、担架も使えない。」
(いくら名前付きとはいえ、首だけ切り取って持っていく訳にもいきませんし。)
生首の鉢植えを大韓帝国では首爾と表記する。意味は「首だけ」。
「急ぐなら、展望台の端から無理矢理ロープで引っ張り上げるくらいしか無いが、それは法的な問題がある。」
「ほうりつ とは」
「分かりやすく言えば、人には使えない。」
動物愛護法では生きた動物もダメだが、マスターもそこまでは知らない。
(もし異世界から埼玉県警が来たなら、修羅は人間では無いと言い張るかな。でも、結局は安全上の理由ですよね。)




