222:最高会議幹部会
【第三層群10階会議室】
「側近書記殿の挨拶は省略します。会議時間が終わってしまいますので。」
「○」
安楽椅子に載せられたマリーに代わってミントが開会を宣言。
ダンジョンマスターと名前付き紫蘇(修羅)8名で構成されるのが「最高会議幹部会」。労農ロシアの最高会議幹部会同様、議長は儀礼的意味合いが強く、従来は書記長が実権を握ってきた。
「まず、今後の方向性ですが、当面はこちらからは動かず、行き当たりばったりで、よいでしょう。」
「ミント管制室長、もう少し、もっともらしい言葉を使った方が良いと思うが。確かに、現状、受け身に回らざるを得ないとはいえ。」
サピエン先生が言う。
「運営理念は『物心共に健康で豊かな生活を実現する』であり、ダンジョンの内政は『百万町歩開墾計画』に沿って進めています。外交に関しても、四ヶ国連合・織田城とも特に注意すべき動きはありません。また、近隣ダンジョンが活性化したという報告もありません。」
(ただ、だいぶ目立つことをやってしまいましたし、もっと遠くの越とか美濃尾張とか奥州諸国、あるいは商都梅田にすら警戒が必要な時期とは思いますが。美濃尾張で身の終わりなんて、長田忠致みたいな末路は困ります。)
もちろん、長田忠致は美濃尾張の勢力と揉めて身の終わりになったわけではない。
「武蔵は入間・府中方面、いずれも平穏です。北武の勢力がこちらに不満を持っていそうですが、現時点では具体的な動きはありません。」
スカーレットが報告する。
「北部?」
「男衾を中心とし、那珂・児玉・賀美です。榛沢は同調していない模様です。いずれも横見の裏側で、ダンジョンの影響が及ばない場所ですが、逆に向こうから何かしてくるにも遠いでしょう。」
(男衾は注意が必要。と。)
橘樹や都筑が南武。多摩や秩父は武西、埼玉が武東という地理的な分類。ただし、武東は無人地帯だったので図書館都市ダンジョン影響圏となっている。
「平塚及び総の国府台方面も問題はあらへん。むしろ総には『不平分子の引き取り』を感謝されたくらいだ。」
キンランが担当する南東方面も状況に問題は無い。
(だいぶ癖が強い人達ですからね。総も持てあましていたのでしょう。)
「毛は、急にこのダンジョンと隣接することになったためか、少し悪感情を持っている模様です。刺激しないよう、本格的は街道整備は後回しにした方が良いでしょう。」
北西担当のラージャが報告する。
(餓鬼ならともかく、畜生に砂漠を越えるのは難題でしょうから、今はそれで良いでしょう。でも対策は考えないといけませんね。)
「最期に、織田城は相変わらずです。電車はまだかと聞かれましたから、電車の本を贈っておきました。」
アンが報告する。
(なにか、順調に駄目人間になっている気がします。本当に異世界の織田信長に相当するのか、怪しい気がしてきました。)
そもそも最初から織田では無く小田である。
「なお、北東方面は宇都宮城の向こうはすぐに那須塩原ダンジョンで、奥州方面との交通には船が必要となり行き来は限られるため、後回しとしています。」
ファリゴールが報告する。
「船って、見沼みたいな湖があるのか。」
「マスター、湖では無く、『塩原の上を航行する船』だそうです。おそらく何らかの固有法則によるものでしょう。」
(塩の上に船。ですか。単に鍵を掛ける『部外者立入禁止』と違って、かなり力のある固有法則のようですね。少なくとも丹沢ヒルズと同格以上、と見るべきでしょう。)




