208:ゾンビダンジョンの最期。そして……(9日目・午後遅く)
【ソンビダンジョン隣・付城】
「図書頭様、敵ダンジョン、傾き始めました。」
見張りが報告する。
「五位蔵人さん、航空偵察をお願いします。一挙に水を流し込んで終わらせます。」
付城に残っていた兵士達は、ゾンビダンジョンの最期を見届けようと、残らず砦の上に出てきた。
「しかしまぁ、ダンジョンごと落とし穴に落とすか。とんでもないな。」
感心した兵士が言う。
「これが図書頭殿のやり方よ。」
最初に傘下に入った武士団の惣領、岸播磨介が、どことなく自慢気に言う。
ゾンビダンジョンは左(東)に傾きながら、ゆっくりと滑り落ちてゆく。ダンジョン影響圏の範囲は大地に固定のようで、小塚原刑場ダンジョンの影響圏から外れて図書館都市ダンジョンの影響圏に入った部分から崩れてゆき、上に乗っていたゾンビ達はバラバラと落下し渦巻く水に呑まれてゆく。
「成功ですね。このまま東面の地下を深く掘り下げ、敵ダンジョンの全体をこちらの影響圏の下に滑り込ませます。」
小刻みに揺れながらゾンビダンジョンは東側城壁の下へ消えてゆく。まるで大陸の下に沈んでゆく海洋プレートのように。もっとも、この世界の人間はプレートテクトニクスは知らないし、マリーはダンジョン攻略で手一杯。
ゾンビダンジョンが半分ほど崩壊したとき、地中に白くひときわ明るく輝く点が現れた。
「なんだ、あの光は。」
「ダンジョンコアでしょう。あれを破壊したら勝ちです。それにしても多量にダンジョンエネルギーを溜め込んでいますね。」
マリーがそう言ったとき、ダンジョンコアと思われる物体は図書館都市ダンジョンの影響圏に転がり込む。
ダンジョンコアは蓄積したエネルギーが多いほど明るく輝く。小塚原刑場ダンジョンの膨大なエネルギーが解放されて図書館都市ダンジョンに流れ込む。
図書館都市ダンジョンのコアは過負荷の余剰エネルギーを図書館の召喚に転換するが、量はともかくエネルギー流入速度は到底処理しきれず、津波のように影響圏を広げながらエネルギーを放出、人々は地を走る深い青色の光を見る。光は町や村に当たると止まるが、遮る物が無い場所では100里を越えて広がる。
さらに、ゾンビダンジョン付近では局地的に処理が追いつかなくなり、剥き出しのエネルギーが放出される。吹き飛ばされたゾンビ達が粉々に破裂して消滅、次いで小塚原刑場ダンジョンの残りと左右の城壁、さらに付城の全てが青白い光を放ち崩れ落ちてゆく。
岸播磨介の隣に立っていたマリーの頭からバチ。っと言う大きな音がすると、あたりに焦げ臭い臭いが立ちこめる。固まっている岸団長の前でマリーはゆっくりと倒れ、そして全てが終わった。




