201:10万フィート(4日目)
【コアルーム】
「ダンジョンの高さが30,480mを越えました。」
突如ダンジョンコアからアナウンスが流れる。
「3万メートル、30kmですね。つまり10万フィート。やっぱり、このダンジョンのシステムはヤード・ポンド法です。」
当然、通常はダンジョンコアは単にエネルギーが溜まっているだけで、管理システムなんて存在しない。
「つまり、次は100万フィートか。」
「今の基準(概ね30m四方以上、3階建て以上または文化ホール併設等で、ある程度の高さがあるものを優先)では、おそらく40kmを越える程度でしょう。そして、300kmどころか100kmすら日本中の公共図書館4,000を全て集めても到底足りません。全世界なら3,000kmくらい行きそうな気はしますが、他言語圏の図書館は小さい物でも帝国図書館どころでは無いダンジョンエネルギーが必要になります。」
「でも10km追加か。結構ダンジョンエネルギーの獲得量は多いな。」
「ゾンビダンジョンが伝馬町牢屋敷や小塚原・鈴ヶ森刑場などの獄死・刑死者を異世界輪廻転生させているなら、名のある盗賊・追い剥ぎ・任侠・博徒・詐欺師から維新の志士まで多数含まれますからね。それこそ鼠小僧次郎吉から吉田松陰まで。おそらくゾンビダンジョンそのものは位置や石仏から正体は『小塚原刑場』と思われます。」
山口では「松陰先生」と敬称を付けるがマリーは山口県民では無い。それに単に松陰先生では後藤松陰と紛らわしい。
「それにしても、まだゾンビは尽きないのか。」
「このダンジョンが多数の異世界から本を複製召喚するように、複数の異世界地獄から死者をゾンビとして輪廻転生させているのでしょう。この数なら大量にダンジョンエネルギーが必要なはずで、ダンジョンエネルギー自体は数値化出来ませんが、熱力学の法則により、少なくともこちらで図書館の召喚に使っている分以上は使っているはずです。」
「敵は全部名前付きモンスターなんだから、復活して使い回しだったりはしないのか。」
「■■■■ではあるまいし、3日で復活したりはしません。通常は何十日、あるいは1年ほど必要です。それに、再生怪人はエネルギー的には高く付きますから、モンスター枠の制約が無いならあえて復活させる必要はありません。もっとも、ダンジョンで名前付きモンスターの数に余裕がある。という状況は希でしょうが。」
名前付きモンスターは特殊な条件で放逐でもしない限り、仮に死亡していても枠を占め続ける。
「マリーさん、相手には悪知恵が働く相当な悪党もいるだろうに、単調にゾンビを召喚し続けるだけなんだな。」
「大部分が首を斬られていますから、胴体だけでは知能が無いのか、単純にゾンビは脳が働かないのか。でしょう。ですが、異世界から輪廻転生した、名高い盗賊や詐欺師などがその能力を発揮されては、わたしでは太刀打ち出来ません。」
「それで、ゾンビダンジョン攻略の目処は立ちそうか。」
「このダンジョンのような特殊な固有法則がない限り、ダンジョンに侵入しコアを破壊すればダンジョンは攻略できます。ゾンビダンジョンは地表には仏像と石碑があるだけですし、地下室も無さそうですから、おそらくコアは地中に直接埋まっていると思われます。ただ、骨まみれの土を掘ってコアを探すというのも難儀ですから、何か良い方法を考えなければなりません。」
「首無しゾンビも次々湧いてくるからな。いっそダンジョンごと焼くか。」
「相手の領域に燃料だけを運び込んだら、放置物と見なされゾンビダンジョンに吸収されて強化に繋がる危険もあります。冒険者が所持品として持ち込む分には大丈夫ですが、冒険者も生きている以上、今度は感情が相手ダンジョンの強化に直接繋がってしまいます。」
「確かにダンジョンの基本は、冒険者を呼び込んで、戦わせたり宝物を与えて感情をエネルギー源にする。だからな。」
「むしろ、この図書館都市ダンジョンみたいな『人間牧場』が例外ですね。普通は、ダンジョンの中は限られた『安全地帯』以外は危険なものです。」
「着実にやるしか無いか。」
「ただ、先日南に向かったゾンビが心配です。じきに荏原郡の旗之台を襲いかねません。これが国府台なら対応できるでしょうが。」
直接的な表示は出来ないため伏せ字としています。




