197:夜間偵察(2日目夜)
【無名橋関所上空】
パンジャンドラムが関所前のゾンビをあらかた一掃し、その後、南の平塚からやってくるゾンビを随時駆除。パンジャンドラムの餌食にならずに関所に近づいたゾンビは、騎士団が再出撃して残党狩りを行う。
その頃、五位鷺の正五位野田治部大輔が無名橋に到着し、夜間偵察に向かう。
しかし、五位鷺は腕が翼なので、飛びながらではカメラも電話も使用できない。このため、マイク付きヘッドホンで管制室と通話しながら目視偵察するしかなかった。
「異世界には、訓練した猛禽類などにカメラを背負わせて撮影する方法がありますから、今後は五位鷺空撮用のカメラを用意しないといけませんね。」
「マリーさん、神話の天使みたいに、手の他に背中に別途羽があれば便利なんだろうが。」
「マスター、それだと解剖学的には6本足になりますから難しいのでしょう。ダンジョンモンスターであっても、普通の動植物と大きく姿が異なるなら大量のダンジョンエネルギーを要しますから。昆虫なら脚と別に羽がありますが、昆虫は骨格と呼吸の問題で巨大化できないため、ダンジョンの力で無理に大型化すると、やはり大量のダンジョンエネルギーを要します。」
しかも五位鷺はダンジョン外でも飛べないだけで歩くことはできるが、巨大昆虫はダンジョン外では潰れてしまう。
「正五位治部大輔さん、ダンジョン影響圏から出ないように常時気をつけて下さい。」
「了解。ゾンビですが、ある程度ばらけた列を成して、南方、平塚方面から次々歩いてきています。」
一般には鳥目と言うが、五位鷺は夜でも全く問題無い程度に見える。
「相手ダンジョンの状況は分かりますか。ただし、ダンジョン影響圏から出ないことと、飛び道具が無いとも限らないので接近は避けて下さい。」
五位鷺は物理的には飛行不可能であり、ダンジョン影響圏から出てしまうと墜落してしまう。
【ゾンビダンジョン付近上空】
「ゾンビダンジョン北側に到着しました。距離があるので詳細は不明ですが、今も次々ゾンビは生産されています。」
五位鷺はとんでもないことを言う。
「マスター、100m四方も無いダンジョンに万単位のゾンビを収納することは困難です。相手は『無尽蔵にゾンビを作成する』固有法則を持つと思われます。」
「マリーさん、勝てないか?」
「固有法則がどうであれ、ダンジョンそのもののダンジョンエネルギーの制約はあるでしょう。どれほどのエネルギーをため込んでいるかは不明ですが、こちらの影響圏内で相手のダンジョンエネルギーが枯渇するまでゾンビを倒して倒して、ダンジョンエネルギーを奪い尽くせば理論上は勝てます。」
「ゾンビの流れは、概ね西の平塚方面に向かっています。しかし、新規に出現したゾンビの一部はダンジョン付近に滞留し、移動はしていません。」
「やっぱり、人が居る方向へ向かうのでしょうか。」
「あ、ゾンビ、一部が南の方向に向かっています。」
「え、南……。追跡……いえ、一端帰還して休憩してください。そちらはダンジョン影響圏ではありません。」
【第三層群・管制室】
「不味いですね。南は……2~3kmほどで平塚と国府台を結ぶ道があり、そこから南は砂漠や涸れ川ですが、少し西よりには平塚南方の村があり、さらに進むと荏原郡の旗之台があります。ゾンビは足は遅いですが昼夜行動可能ですから、1日の移動時間は人と同程度です。放置したら3日もあれば旗之台はゾンビに襲われます。」




