195:ジャガーノート作戦
【コアルーム】
「詳細は現地に一任するにしても、ラージャ達が無名橋に着くまでに、大まかな方針を決めておく必要があります。」
「トラックで轢いたらゾンビも異世界転生するだろうか。」
「でも、トラックも傷みますから、そうたくさん轢くことは出来ませんよ。」
「例えば、移動図書館のトラックにダンジョン構造物の鉄板を装甲として取り付ければ、強度は問題無いのでは。」
「それでも、大量のゾンビに囲まれたり、トラックが故障したらゾンビの群れの中に取り残される危険があります。ある程度ゾンビの数を減らして、残りを踏んで廻るなら可能でしょうか。ゾンビは遅いですから、数が少なければトラックが故障しても走って逃げる余裕はあります。」
「現状では多すぎるからな。」
「まず、ゾンビの群れを肥料を転用した爆薬で吹き飛ばし、数を減らしましょう。別の異世界の資料に『パンジャンドラム』という無人自走爆弾がありますが、これを多数ぶつければ……。ゾンビはどんどん押し寄せてきているから、今から肥料を爆薬に変換して前線に運んでいる暇は無いですね。」
ダンジョンの機能として肥料は召喚出来るが、爆薬を直接召喚は出来ない。
「その、ぱんじゃんナントカを直接ゾンビにぶつけたらどうだろうか。」
「確かに、移動図書館の3.5tトラックは総重量8t程度ですが、もっと重い物体を、モーターより効率は悪いとは言えダンジョンエネルギーで直接無理矢理動かすなら、多数のゾンビも轢き潰すことができそうです。では、時間もありませんし、早速生成します。」
【第三層群10階応接室】
「パンジャンドラムは車輪が1組だけですから、形状から見て、左右の車輪を独立に回転させることで走行方向を調整していたと思われます。」
機械担当眷属の小林が写真を見ながら言う。もちろん全くの見当違いなのであるが。
「なるほど。」
「重心を回転軸よりも下側とすることで、空転・転倒を防ぎます。確かに直接ダンジョンエネルギーを使用するのは効率が悪いですが、故障のリスクは無くせるでしょう。」
「なら、それで生成しますから、細かい仕様等、気をつける点を教えてください。」
【第三層群・管制室】
「こちら管制室。ラージャ、無名橋に着いたら、豊島代官と合流し、関所まで撤退してください。ゾンビが寄ってくるように関所の門は開放。関所前でゾンビを潰します。」
「マリー、また何か落とし穴の変種でも準備しているのですか。」
「いえ、ゾンビはダンジョンモンスターで倒せば消えますから、一度落とし穴に落としてからダンジョンの機能でいちいち死体を片付ける必要はありません。もっと直接的な方法です。題して『ジャガーノート作戦』。」
「マリ-さん、何だそれは。」
「マスター、英語のジャガーノートとは、『インドの祭りでジャガンナートの山車により毎年のように轢死者が出た』ことから、止めることの困難な圧倒的な力を意味します。ダンジョン構造物による巨大な整地ローラでゾンビを潰して廻ります。」
「そんな死ぬような祭りをしなくても。」
「だからと言って、ああいうものを無理にやめさせたら一揆が起きかねませんよ。生活に余裕が出来れば祭りに山車が登場し、電線などの制約もなければ巨大化するのは止められません。社会そのものを廻すためには、やむを得ない犠牲もあります。」




