191:ゾンビ・パニック(2日目)
※死体描写注意
【豊島代官所・平塚】
「お代官様! 図書館都市からの知らせ通り、町外れの砂漠、辰の方角1里余りの場所から、首の無い腐った死体が大量に湧き出しています。」
豊島代官所に報告が入る。
「おそらく、先日粟の者達が大量に餓鬼を呼び込んだから、その死体だろう。動くというのは見間違いだろうな。それにしても砂漠に放置するとは迷惑だ。様子を見に行く。」
代官の家来は少数しか居ない。問題になるのは海賊程度で、隣国の国府台までは30里程度・歩いて3日だが、総との関係は別に悪くは無く、途中に綠洲も無いため、兵力を貼り付ける必要も無い。
【平塚郊外の砂漠】
「む、これは酷い臭いだ……。」
代官一行が現場に近づくと、あたり一面に悪臭が漂っている。
「お代官様、あれです。首無しの死体が動いています。」
「死体が動くものか。」
だが、死体の群れはゆっくりと代官達の方に歩いてくる。
「お、お代官様ぁ、何百、何千って居ますよ。あれ。」
「臆するな。有象無象など何人か切り倒せば逃げる。」
代官はそう言うと、最も近い死体を切り捨てた。斬られた死体は地面に倒れると、姿が薄れすっと消える。
「消えた……。ただの死体では無いな。妖怪変化の類か。」
だが、斬られて消えた死体以外はゆっくりと代官達の方に歩いてくる。
「数が多すぎる。引け!」
【豊島代官所・平塚】
平塚は北西から南東に延びる長さ2里あまり・高さ7丈程の崖の上にあり、南西側が台地で、北東は低地となっている。
「首無し死体の数はどの程度か。」
「お代官様、おそらく万は越えると思われます。」
人の半分に足りない速さでごくゆっくりと歩いてきた多数の死体は崖の下を埋め尽くし、さらに緩慢な動きで崖を登ろうとしていた。目がないためか途中で転落する者が多いが、登り切るのは時間の問題。しかも、既に午後、このままでは夜が来る。
「せめて石垣があれば……無いのは仕方ない。民に告げよ、平塚を捨てるしかない。」
「どちらに逃げられますか」
「北しかあるまい。無名橋なら2里あまり。日のある内に付くことが出来るし、死体は歩くのが遅いから一刻か二刻は稼げるだろう。対して南の旗之台は30里あるし西の府中は50里だ。もし追われたら、多くの者が途中で力尽きる。ただ、南と西には伝令を出す。平塚には馬は2頭居るから、両方とも伝令が使え。」
「承知致しました。」
「あの死体どもが北へ追って来てくれれば、図書頭殿が何とかしてくれるであろう。」




