188:アメ車を召喚しようとして……
【コアルーム】
「さて、これから中山街道に沿って影響圏を広げていくとして、織田城より少し近いとは言え国府台もけっこう距離はあるな。」
「ダンジョンが成長しているので、そろそろアメリカ製のビッグリグが欲しいのですが、図書館の備品には見当たりません。自作しようにも、例えば車のタイヤは単純な構造のゴムでは無いので、古タイヤをダンジョン構造物として成形してから解除。という方法では作ることが出来ません。」
「まだ鉄道の方が作るのは容易では? もちろん異世界にあるようなちゃんとした鉄道は無理だろうけど、信号も何も無しで、モーターを付けた台車を走らせるだけなら。」
「確かにエネルギーで考えれば鉄道はトラックや乗用車の2割以下で済みますから、ダンジョンには向いているかもしれません。ですが、船ならともかく鉄道をダンジョン構造物で無理矢理作ったら、それこそ開業初日に国会議員を轢き殺しかねません。最低限の安全確保は必要でしょう。それこそ、どこかに車両基地ダンジョンか、あるいは鉄道博物館ダンジョンでも埋まっていれば早いのですけどね。」
マリーは埼玉県の地図を見ながら言う。異世界と一対一対応はしていないとはいえ、この図書館都市ダンジョンがある場所が埼玉では一番可能性が高い場所のはずではあるが、そういった気配すら無い。
「マリーさん、このダンジョンは異世界の埼玉には無い丘の上に載っているけど、この丘の地下はどうなっているんだろう。」
「ダンジョンの『根』、と言うか、世界のコアからのエネルギーをダンジョンへ供給する部分です。かなり大きな空間はありますが、他の何かが埋まっていたりはしませんよ。」
「ダンジョンにあまり期待できないなら、いずれは、自動車だろうと何だろうと自前で製造出来る工場を用意しないといけないか。」
「実際、これからの農村の機械化でも、農機具の量産にはきちんとした工場が必要です。仮に労農ロシアの『最も多くの種を絶滅させたトラクター』を無許可コピーするにしても、現状では不可能です。」
「車なら、ある程度は召喚出来るが、これも制約があるな。」
「この世界の農家は本格的な機械化・大規模化は進んでいませんから、ピックアップトラックが手頃で良いのですが、図書館の公用車は本を運ぶため概ねSUVや小型車です。」
異世界は太平洋戦争が無かったため、アメ車の組み立て工場とディーラー網が存続し、1960年代に自動車運搬船の登場で一気に輸入が増えた。このためアメリカ製のピックアップトラックやSUVが売れている。しかし、図書館に限らず公用車には政治的理由で国産車が多く、公務員には不評。マリーもわざわざアメリカ製SUVを選んで召喚して乗っている。




