183:冬越しの手配
【コアルーム】
「マリーさん、どうやら食料は足りそうだが……、温室で稲作とは、驚いた。」
「温室で冬に稲を育てる、なんてのは、ダンジョンエネルギーの収支を考えたら狂気の沙汰です。温室そのものは来年以降は野菜に転用出来るので無駄にはなりませんが。」
「仕方ないことではあるが。」
「ダンジョンでは無い場所で、単純に効率だけ考えたら、食料が足りない分の住民には餓死して貰う方が得です。もちろん、ダンジョンは人間の感情をエネルギー源にしていますから、この図書館都市ダンジョンみたいな『人間牧場』では、飢餓を蔓延させるわけにはいきませんが。」
どうせ人間はいくらでも殖えるので、反乱を抑え込めるだけの武力があるなら、飢餓輸出を強行し余剰人口を餓死させた方が得。というのは人類史上多々ある話。
「人口急増でダンジョンエネルギーの支出が極端に多くなっているからなぁ。」
「ダンジョンは、企業の資金繰りと異なり『銀行からダンジョンエネルギーを借りる』ことは出来ませんから、ダンジョンエネルギーの資金ショートは即破綻です。ですから、住民の意欲が低下すると冬を越えることができません。祭り等で一時的なテコ入れも可能ですが、結局、理念通り『物心共に健康で豊かな生活を実現する』というのが一番でしょう。」
「衣食住のうち、住宅は問題無いし、衣類も即座に不足するという訳では無い。でも食料は日々消費するからなぁ。」
「特に穀物は必要量が多く、栽培に時間が必要ですからね。」
「この秋の収穫15,000石では全く足りないな。」
「異世界の品種と化学肥料を投入して反収1.5石、最初はこんなものでしょう。今後は反収2石、長期的には異世界並の反収3~4石(450~600kg)まで行けば十分でだと思います。」
「それで、今後の米の収穫見通しは。」
「この秋に1,000町歩(10k㎡)で1.5万石(2,200t・反収1.5石)、真冬に再生二期作700町歩で1万石(反収1.5石)、冬の終わりに温室栽培5,000町歩で10万石。春遅くには麦が5万町歩(500k㎡)でおそらく最初は50万石程度。来年の稲の作付けは入植者の数にもよりますが、仮に入植者ゼロとしても5万町歩なら100万石。来年秋以降は本格的に年貢米で人を雇って廻す仕組みを確立します。要は麦の収穫まで持ちこたえることが出来たなら、人口が100万人になっても大丈夫です。」
「冬を越す。あたりが問題かな。温室栽培の米の収穫まで持ちこたえることが出来れば大丈夫そうだが。」
「冒険者が減っているため食糧供給が滞っていますからね。近所に食料を産するダンジョンでもあれば……、やはり、ダンジョンが他のダンジョンに攻め込む。なんてことは難しいでしょうね。」
「送り込めるのは名前付きモンスターだけ、しかもダンジョンの効果は得られない。だったな。」
「はい。ならば、騎士団を、といっても、ダンジョン内だけで手一杯で外征の余裕はありません。確かにダンジョンは影響圏内の出来事は全て映像で記録できますが、泥棒を実際に捕まえて、公開尻敲きの刑に処すのは騎士団にしか出来ませんから。」
江戸時代同様この地域でも「敲き」は、泥棒・喧嘩などに適用される。殺人や金額の多い泥棒は死刑だが、このダンジョンには首斬りが上手い者は居ないため、必要になったらギロチンを作る予定。




