181:ダンジョン構造物の活用方法
【コアルーム】
「マリーさん、ダンジョン構造物って『解除』したら崩壊するんだったな。」
「はい。罠はそうなっていますね。落とし穴は天井をダンジョン構造物から外して崩壊させます。」
「ガラス板を『解除』したら、粉々になるのか、それともガラス板なので形を保つのか。」
「砂から作っていますから、おそらく元の砂漠の砂に戻るでしょう。」
「なら、例えば空き缶などの鉄屑から鉄板を作ったら、空き缶に戻るんだろうか。」
「おそらく、エントロピーの不可逆性で、缶には戻らず鉄粉になると思われますが……試してみましょうか。」
【第三層群・玄関前広場】
「不要な鉄製品を集めて、と。これをダンジョンの力で。」
鉄の部分がスライムのように動いて集まり、1枚の小さな鉄板になる。一方、鉄では無い物は、そのままその辺に転がっている。
「いつ見ても魔法だな。」
「ダンジョンの力ですからね。『魔法』も正体はそうなのでしょう。」
「それで、この鉄板はダンジョン構造物と。」
「はい。では解除してみます。」
何も起こらない。
「あれ、解除できていませんね。」
「ダンジョン構造物のままか。」
「……ダンジョン構造物では無いはずですが……。もしかして、砂だからバラバラになるだけで、鉄板は解除してもそのままなのでしょうか。ダンジョン構造物なら容易には壊せませんから、穴を開けたり加工できるなら、ただの鉄板と言うことです。」
【コアルーム】
「それで、まとめると。」
「ダンジョン構造物は単純な組成のものしか作ることが出来ませんが、『単純な組成』を利用して、不純物を含む材料から一度ダンジョン構造物で何かを作り、それを解除することで精製できます。先ほどのように、例えば屑鉄から鉄を精製可能です。ただし、エネルギー的にはコアから供給される電力で電炉を使う方が効率的となります。」
「電炉って製鉄所だろ。そんな大げさな物が要らないなら、今の時点では極めて有用では無いか。」
「ダンジョン構造物はサイズに誤差が大きい問題も、工作機械で加工した物をダンジョン構造物に指定することで解決します。つまり、きわめて強度の高い部品を容易に作成可能。ということです。もちろんダンジョン外では、ただの物体に戻ってしまいますが。」
「とんでもなく強度あるからな。」
「ただ、このダンジョン本体の強度は、高さ約20kmの塔を積み上げても潰れない程ですが、本体以外ではそこまでの強度は無いようです。ごく小さい鉄板の場合、力をかけると曲がらずにポッキリ折れてしまいました。ですから一定の強度計算は必要と思われます。」
「あと、精製が可能ということは、砂漠の砂を大量に集めて金を抽出できる。ということだろ。」
「理論上は可能ですね。ただ、とんでもなくダンジョンエネルギーが必要になるでしょうが。」
「万単位の生贄が必要になるか。」
「さすがに、このダンジョンに本気で攻めてくる者は、もう居ないでしょうが。」
「そうなると、住民が寿命等で亡くなる分だけか。」
「何か考えた方が良いですね。『台湾誌』という本によると日本では阿弥陀様に大量の生贄を捧げてましたが、これ、ダンジョンがある世界から紛れ込んだ本なのでしょうか。」
江戸時代にイギリスで刊行された、台湾人サルマナザールの著作だが、図書館都市ダンジョンと関係の深い異世界では「偽書」とされている。




