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177:飢えて大根をかじる東北地方の子どもたち

【コアルーム】


「修羅は通常の植物と異なり光合成が出来ないため、修羅用の液肥には炭水化物やアミノ酸なども含みます。とはいえ、栄養士のマリベル(サルビア・ヒスパニカ)が言うように、人間が長期間飲用しているといろいろと栄養が不足してきます。このため、野菜の増産を進めています。」

「マリーさん、野菜で補うと。」

「ええ、別の異世界の教科書に『飢えて大根をかじる東北地方の子どもたち』という写真が載っていました。これを参考にします。」

「大根か。」

「この図書館都市ダンジョンと関係の深い異世界では、東北地方にかなりの開発資金が投入されていたため、昭和初期の凶作でも災害用の不味い缶詰を食べさせられたという苦情はあったようですが欠食児童が出るような事態には陥っていません。ですが、世界によっては、経済的苦境とか無駄遣いとか分配の失敗とかいろいろなパターンがあったようで。トルストイでは無いですが、『すべての上手く行った世界は似ている。不幸な世界は、それぞれ異なる理由で不幸である』と言うことが出来るでしょう。」

「その『災害用の缶詰』は図書館の備品ではないため召喚出来ない。と。」

「はい。缶詰に限らず非常食は召喚出来ませんから、秋の終わりや冬に収穫可能な野菜を多めに栽培します。それこそ大根とか。」

 ダイコンは中国(華北の中華帝国でも華南の中華民国でも)で広く栽培され蘿蔔ルオポとして知られている。この地域に大根が存在すると言うことは中国もあるのであろう。あるいは、過去に中華ダンジョンがあって持ち込まれたか。


「とはいえ、種は雑誌の付録だから、要らない雑誌が山ほど出るんだよな。」

武蔵むさしに運ぶのも大変ですからね。来年以降は、さらに沢山の種を召喚するので、雑誌は焼いた方が早いかもしれません。」

「マリーさん、栽培した野菜から種を採る訳には行かないのか。」

「それが出来る野菜と出来ない野菜があります。ざっくり分けて『F1種』と『固定種』。F1種は一代雑種とも言い、異なる品種の掛け合わせで特定の商業的に優れた(売れる)性質を持たせた品種です。収量が多かったり、栽培が容易だったり、消費者によく売れたりするので、商業的な栽培で多用されます。掛け合わせで作った品種なので、種を播くと次の世代では形質はバラバラになるため毎年種を買わないといけませんが、商業栽培の場合は利点の方が多いため、あまり問題にはされません。」

「次の世代で、ということは種を採ると……。」

「はい。ですが、種代は大した問題にはなりません。ただ、このダンジョンの場合、種だけで無く雑誌が付いてくる。と。いう問題があります。それこそホームセンターダンジョンでもどこかにあれば良いのですが。一方、固定種は、毎年種を播いて、その中から都合の良いものを選抜し品種改良したものです。一度雑誌を召喚して栽培すれば、来年以降その種を栽培すれば良いのですが、どうしても大きさや収穫時期がばらつき大量出荷に向きませんし、一般にF1種より収量は劣り病虫害にも弱くなります。」

「要は……マリーさん、どうすれば良いんだろうか。」

「今のように、急いで大量の野菜を栽培しなければならない場合は、F1種が向いています。ですが、固定種も召喚して、来年以降はその種も使うようにすれば、ダンジョンが雑誌の山に埋もれるような事態は避けられます。問題は、種がどちらなのか表記されていない雑誌や学習教材ですね。」

「種を播いてみないと分からない。か。」

「まぁ、そういうのはF1種と『みなし』て種を採らなければ済むのですが、問題は、この世界にはF1種は無いので、こちらで何を言っても勝手にF1種から種を採った挙げ句、来年酷い目に遭う農家が出るに決まっている。ということですね……。」


「村の中の事だから、法律で禁止する訳にもいかないからな。」

「タネ警察に巡回させる。なんて訳にもいきませんからね。それに、農家がそうやって試行錯誤するから、この地域に合った農業が発展する訳です。日本が食料を輸入しているのは単純に人口過剰ですが、面積が日本の40倍で人口は同程度の労農ロシアが食料を輸入しているのは、計画経済なんて上手く行かないからです。」

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