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171:貨幣制度、金貨はダンジョンで獲ってくるもの

【第三層群10階応接室】


「マスター・側近書記セクレタリー、年貢の金納併用とは、いわゆる『関東畑永法』に似た方式を部分的に採用するものとなります。これは、面積あたりの年貢を小判に連動させた中国の永楽銭を計算単位として金銭で納める方式です。」

 スカーレット(サルビア)が言う。

「その場合、金銭をどのように流通させるか。という問題にもなりますね。この世界、造幣局とか無さそうですが。」

「そこは調べましたが、基本的にはダンジョンモンスターが直接小判や一文銭をドロップするようです。この世界、ダンジョン以外では土が死んでいるように、鉱山も基本的にはダンジョンなのですが、鉱石を掘り出すだけでは無く、なぜか一部のダンジョンではモンスターを倒すとお金を落とすようです。このため、江戸幕府が無いのに小判や一文銭が流通しています。」

「ゲームではあるまいし。それにそんな錬金術みたいなこと可能なのか。」

 と、ダンジョンマスター。

「可能とすれば、ダンジョンエネルギーによる異世界からの複製召喚。なのでしょう。それにしても、モンスターって……。たぶん、そういう金銭を産するダンジョンのマスターはMBA(経営学修士)なのでしょうが、きちんと供給量を管理するのは難しそうですね。」

 マリーが感想を言う。適切に難易度管理されていない金山ダンジョンなど、冒険者が群がってたちまち狩り尽くされてしまう。

「供給が増えすぎたらインフレ、最悪はダンジョン自体の破綻。減りすぎたらデフレ、あるいは冒険者が来なくなりダンジョンの経営破綻。このダンジョンはゲゼル通貨を基本としますから、小判や一文銭みたいな問題は避けられるでしょうが。」

 スカーレット(サルビア)が言う。

「ゲゼル通貨?」

「マスター、自由貨幣とも言って、時間経過で価値が下がる通貨です。米は時間経過で新米・古米・古古米と価値が下がりますから、通貨を死蔵することは困難となります。もちろん、小判に換金すれば保管できますが、米相場は変動しますからリスクが出てきます。」

「それを調整するのが米先物市場でしたね。」

「はい。近世レベルの社会で米市場の統制なんか試みても闇取引が増えるだけですから、価格調整は市場に任せた方が社会は安定します。一方、いわゆる社会のセーフティネットをダンジョンで用意出来れば、周辺諸国との差別化が可能です。」

 単に近隣諸国はそんな余裕が無い。というだけである。図書館都市ダンジョンだって配給の食糧は異様に不味い液肥だが無いよりマシ。


「え~と、スカーレット(サルビア)さん、この世界の通貨制度は相当複雑だけど、独自に通貨を発行して管理とかは出来ないんだろうか。」

 金貨・銅貨にそれぞれ相場があり、銀は重さで計り、鉄貨は銅貨と額面は同じ1文だけど幕府は無いので統制されず銅貨と異なる相場で動く

「マスター、まず金貨等を発行するには貴金属そのものが必要ですし、紙幣も兌換紙幣なら紙幣と交換するための金が必要になります。一方、金との交換を保証しない『不換紙幣』は、政府の信用、このダンジョンで発行するならの図書館都市ダンジョン自体の信用が必要ですが、この世界には中央銀行はありませんから、紙幣は政府が野放図に発行して混乱を招いたり、酷い場合は紙屑になったりと問題を引き起こしかねません。ですから、現状では独自紙幣は受け入れられないでしょう。」

「なるほど。」

「なお、図書館の備品として召喚した電子機器等を破棄するとき、十分な設備があれば、金や銅を取り出して小判や一文銭を製造することは可能です。作った貨幣でも、重さと品位が同じなら普通に流通します。ただ、金も銅も工業的な用途が多いですから、貨幣にするのはお勧めしません。」

「だいぶ先の話だな。」

「ただ、経済的に問題を引き起こしかねないのが『百万町歩開墾計画ひゃくまんちょうふかいこんけいかく』です。短期間で地域の生産力が大幅に増えるわけですから、経済規模の急拡大に金銭の供給が追いつかずデフレが発生する危険性があります。その頃には、図書館都市ダンジョンの信用力も上がっているでしょうから、まず米切手を発行し、次いで紙幣発行も考慮すべきかもしれません。」

「まず米切手と?」

「なにぶん米は重いので運搬の問題がありますから、ダンジョンで引換証を発行してそれを流通させます。ただ、年貢として徴収済みの分は問題無いのですが、来年の収穫分の米切手を発行する場合は凶作でも引き渡し可能な量に留めないと信用問題になります。なお、まず米切手なのは、紙幣の偽造防止がどの程度可能か確認する意味もあります。」

「たしかに、この図書館都市ダンジョンは比較的進んだ技術を入手可能ですが、もし22世紀の技術を持ったダンジョンがあったら、紙幣など容易に偽造されてしまう可能性がありますね。」

側近書記セクレタリー、22世紀以降に限らず、印刷技術が特異に進んだ世界もあり得ます。全ての技術が文明レベルに比例して発展する訳ではありません。」

「確かに、複数の異世界の本を比較してみると、だいぶ差はあるな。何かで『上手く行かなかった世界』は技術も遅れ気味になる気がする。」

「マスター、技術も実用化に巨額の開発費が必要なものも多いですから、やはり世界の『経済力』による制約は出てくるでしょう。」

このダンジョンと関係の深い異世界も、未だ戦艦がのさばっているとか、新幹線は無いとか、遅れている面もある。一方、ロケットは概ね固体燃料で液体燃料式宇宙ロケットは無いが爆轟回転(回転デトネーション)発動機(エンジン)を搭載した宇宙飛行機はある。など、異なる方向へ進んだ技術もある。

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