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170:八公二民の酷税?

【第34層群・生涯学習棟・小研修室】


 現在、図書館都市ダンジョンの一番下、地上にある第34層群は、県立図書館を含む大規模複合施設である。

「太郎左衛門さん、無事収穫にこぎ着けましたね。」

図書頭(ずしょのかみ)様、あとは、収穫が終わるまでに砂嵐などが来なければ良が。」

「相当の砂嵐でも、このダンジョンでは通徳利かよいとっくりの1本でもあれば止めることが出来ますよ。」

 通徳利とは陶器の一升瓶。


 マリーは初期入植者の岡田太郎左衛門と年貢について打ち合わせを行う。

「それで、今年は田畑を、いわば『直営』で管理しましたが、約束通り、来年から本格的に村単位で年貢を納める『村請制』に移行します。」

「皆、本百姓になり自分の田畑が貰えると頑張ってきたからな。教科書を読むために読み書きも覚えようとしている。」

 図書館都市ダンジョンの制約により、農学校の教科書(世界によっては農業高校の教科書)は容易に入手可能だが、逆に江戸時代の農業書は入手困難。

「そこで、年貢の話ですが、水田は既に決めているように、石盛こくもり1反1石の四公六民で裏作の麦は農民の主食なので課税しません。この場合、物価がどうなろうと1反1俵を徴収、いえ、納めれば済みます。」

「頑張って反収1石5斗なら2と2/3公になる……だったか。」

 裏作の麦や副業もあるが、それらは課税対象外。無理に課税したら一揆が起きる。

「収穫が増えれば増えるほど実質的な年貢率は低くなります。はっきり言って、このダンジョンにとって、一揆を起こされるより生産力向上に頑張って貰う方が得ですから。で、問題は畑なんですよね。」

「採れない米は納められない。という訳か。」

「簡単な例えで、水田が半分の村で反収1石なら、水田は八公二民、畑は無税。で計算が合います。」

「八公二民とは、とんでもない年貢だ。米だけだが。」

「ですが、そもそも水田が十分に無い村だと米を年貢で納めることは出来ません。理論上は、米屋で買ってきて納める。ということも可能ですが。」

 江戸時代、多くの地域では畑や果樹園や屋敷の分も米で年貢を納めたため、商品作物地帯では米を買ってきて年貢にすることが普通に行われていた。関西の綿花産地や交易で栄えた能登では、計算上の年貢率が九公一民になった村もあった。あくまでも計算上の話で、実際に九公一民なんてやったら一揆が起きて藩主は切腹すら許されず斬首となる。

図書頭(ずしょのかみ)様、つまり、米を買って納めるなら、不作などで相場が変わって年貢用の米が買えないときがある。と。なら、最初から銭で納めれば良いのに。」

「それも、作物が暴落したら売れない。という問題があるんですよね。特に保存が効かない葉物野菜など、需要が飽和したら町まで運ぶ費用すら出ない場合があります。それに、この世界、通貨制度が煩雑ですから、金納も難しい問題が起きそうです。太郎左衛門さん、普通は年貢はどうやっているのですか。」

 異世界の場合、あまりにも需給が崩れた場合は暴落する前に破棄したりするが、この世界では情報伝達の制約などにより調整は困難であり、暴落時は本当に輸送コストまで価格は落ち、農家の収入はゼロ、経費を含めれば大赤字になってしまう。

「村の畑の広さと地味に応じて毎年一定の小判を納める方式だ。実際には小判では無く、その時の相場に応じた銭となるが、砂塵などで凶作の時は代官所の検分の上、減免や繰り延べにしたりする。」

「全部水田と見なして米だけ八公二民にするか、畑は別に金銭で納めるか、村ごとに好きな方を選んで貰う。あたりでしょうかねぇ。その場合、不利益が出ないように金銭の額はきちんと考えないといけませんが。あるいは野菜先物市場を立ち上げるか。」

「収穫と麦の種まきが終わったら、打ち合わせが必要だな。この層群の『大ほーる』とやらは何人入ったか。」

「1,900席ですね。」

「さすがに皆を集めるには手狭だ。」

「ある程度天気は操作できますから、住民の皆さんを集めて説明会も可能な広さの屋外広場を作りましょうか。とはいえ、将来もっと人口が増えたら、場所以前に集まるのが大変になりそうですが。」

 複線鉄道なら輸送能力は1時間最大6万人程度あるが、このダンジョンで鉄道は入手出来ない。

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