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169:収穫の時

【西門外・見沼対岸・農村地帯】


 夏の終わり、早期米の収穫が始まる。

「ほう、これが稲刈りとな。」

 稲刈りと聞いて霞ヶ関(かすみがせき)から駆けつけた入間いるま代官、吉田西市佑(にしのいちのじょう)が感心している。

「代官どの、稲刈りを見るのは初めてですか。」

「水は貴重なゆえ、米は桶で育てる高級品だからな。米を産するダンジョンもあるが、あいにく、この付近には無いから入間いるままで米は廻って来ない。」

「種や苗の調達など、これまでいろいろお世話になりましたから、収穫が一通り終わったら米1年分、3俵を贈り物にします。」

「かたじけない。ただ、さすがに独り占めもできないし、図書頭(ずしょのかみ)どの、1年は到底保ちそうに無いな。」

「来年は今年の何十倍か植えますから、普通にお金で買うことが出来るようになるでしょうね。蔵米取の人にも全額現米払いが可能になるでしょう。」

「来年はともかく、明後日の新米が待ちきれないな。」


 収穫した米は、大正時代式の足踏脱穀機あしぶみだっこくきにモーターを付けたもので脱穀、唐箕とうみにモーターを付けたもので選別。産業基盤の制約により、召喚可能な「図書館の備品」だけでコンバインを作るのは困難。

「中近東・アフリカ・南米などでコピー品が出回っている労農ロシアのトラクターなら、比較的工業技術が未熟でもコピーできそうだ。」

大場(青シソ)博士、モザンビークの国旗にも描かれている『大量破壊兵器』で『最も多くの種を絶滅させたトラクター』ですか。ライセンス無しでコピー品を作るのは問題がある気はします。確かに異世界までは埼玉県警は来ないでしょうが。」

 さらに、翌々日の朝まで乾燥させ、図書館の備品と言うより警備員室か何かの備品と思われる精米機と炊飯器を使って、ようやっと米飯を食べることができる。もっとも、何十日もかけて1,000町を刈り取る今年ならともかく、栽培面積が桁違いに増える来年以降は米の大部分は10~20日ほどかけて天日干しをすることになるだろうが。



【コアルーム】


「マリーさん、明後日は収穫祭になるのか。」

「いえ、稲刈りが全部終わってからですね。今日収穫したのは初穂ですから、何らかの祭事は行うことになるとは思いますが、このダンジョンに神社はありませんし、お坊さんにお経を唱えて貰う。あたりでしょうか。本来は地域の伝統的な『やり方』というのがあるはずですが、この地域は砂漠で、米は社会的に重要な割に栽培は小規模ですからね。皆が納得するような共通認識としての儀式というものは無さそうです。」

「宗教的問題だから『無ければ作る』訳にも行かないな。」

「宗教を作るだなんて、それこそ邪教カルトの所業ですよ。例えばわたしを神として崇める新宗教をでっち上げるとか。異世界の御成敗式目にも『神は人の敬ひによつて威を増し』とあるように、それをしたら、わたしの力は増すかもしれませんが。それで来世で極楽往生出来るか地獄に堕ちるかは、その宗教もどきをどう使うかで決まるでしょうが。」

 はたして修羅って極楽往生可能なのか。

「人の感情をエネルギーにするダンジョンと似ているな。」

「結局、世界の法則に準拠している訳ですから、基本原理は同じなのでしょう。そして、この世界法則そのものの作成者を崇めるのが一神教と言う訳です。一方、六道の天道てんどうに属する者や昔の偉人や自然現象、場合によっては特定の修羅や餓鬼などを崇めるのが多神教となります。」

「キツネとか?」

「いえ、キツネそのものは神では無く、その使いですね。他にもヘビとか。ヴァサンティ(アオダイショウ)にヘビって言ったら怒られるでしょうが、雨を降らす力と言うのはダンジョンの力を借りているとは言っても信仰の対象となり得る力です。」

ヴァサンティ(雨降し龍)さんを神の使いとして祀るとか?」

「どうなんでしょうね。本人はお酒が奉納されたら喜ぶかもしれませんが。」

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