162:急拡大する田畑、急増する入植者
【第三層群・会議室】
「今の状況を纏めると、ダンジョン影響圏は東の筑波方面は織田城手前の太田橋、北東の那須塩原方面は関城の手前、北西の毛の国方面は忍者城・忍城の手前まで、それぞれ約300kmほど拡張完了。ダンジョン構造物による街道は東の織田城を優先して設置中。といったところです。」
マリーが現況を説明する。
「既存の町や村はダンジョン影響圏に組み込めないから、各街道方面の拡張はそこまでだな。北とか南東とか、あまり人が居ない方面はどうだろうか。」
「マスター、引き続き、街道以外も西の吉野川・入間川、東の太日川まではダンジョン影響圏に組み込みます。北はだんだん標高が高くなっており、水を引くことは困難ですから活用は難しいですが、毛の国の東西を結ぶ街道付近までは広げましょう。」
「側近書記殿、ダンジョン影響圏はダンジョンから見える範囲、それも計算上の地平線よりは内側になりますから、ダンジョン本体を増築しない限り影響圏の拡大には制約が出てきます。」
ミントが言うように、ダンジョン影響圏は視界に制約される。ただ、洞窟型ダンジョンは地下にあるため、ダンジョンから見えない範囲まで影響圏のことはある。とはいえ、普通は塔型や洞窟型ダンジョンの影響圏は数百mかせいぜい数km。この世界では、丹沢ヒルズや那須塩原のような範囲型ダンジョンを除き「普通は1里を越えることは無い」という認識。ちなみに英語が知られていないこの地域では「丹沢ヒルズ」の「ズ」は特に意味は無いとされている。
「ただ、高さを稼げる公共図書館付きのタワーマンションや駅前再開発ビルは、あらかた召喚してしまいましたからね。残りを召喚して高さ20kmを越えられるかどうか。」
「大場博士、田畑の状況はどうなっていますか。」
「はい。砂漠で害虫は少ないためか生育状況は良好ですが、いかんせん作付けが少なすぎます。」
「春には人口が少なかったんだから仕方ない。あまりにも大量に作物を植えても管理しきれない。」
「このままでは春まで持ちません。秋ジャガイモや大根等で可能な限り補いますが、かなりの食料輸入が必要でしょう。」
「人間は繁殖力が高いから殖えすぎますからねぇ……。」
マリーはマルサス・ダーウィン主義なので人口過剰には否定的。
「今の問題は繁殖では無く流入だが。まったく、入植者はいくらでも来るのに食料を持って来ない。」
「勢力を広げたい国衆の分家なら本家から食料を持ってきますが、どうしても生活に余裕が無い人が多く移民しますからね。」
「商人に買い付けを依頼するにしても、金銭が必要だ。契約不履行で総にでも苦情を言う方が良いだろうか。」
「彼らにとっては余剰人口ですからね。修羅用の液肥で耐えて貰うしか無いでしょう。」
色は汚らしい緑色で味は夏場の藻が湧いたドブの水。
「それで、大場博士、この秋の作付けはどの程度にしようか。」
「現在入植者が6~7万人。埼玉の主食は麦ですから、麦蒔きには農民以外も駆り出して、無理矢理5万町歩は種を播く予定です。最初は反収1石として、来年秋まで半年保てば良いので50万石で概ね40万人分程度という計算です。」
「春まで耐えきれば何とかなるかな。冬の間、秋ジャガイモや大根でどこまで補えるか。」
「ラージャさん、今の人口は6~7万で良かったかな。」
「流入が続いていますから正確には言えませんが、7万程度です。ですが、東の街道を開通させると、混乱している東の国から一挙に難民が流れ込む危険があります。」
「逆に、麦蒔きまでに東の難民をある程度入れてしまい、麦の作付けを増やせないだろうか。」
「春の食糧難が深刻になる危険がありますが、冬に大量に難民が流入し、麦が翌年の収穫どころか秋までに尽きるよりは良いでしょう。」
「なら、織田城に使者を送って難民は早めにこちらへ流してもらい、大場博士には麦の作付け増をお願いします。」
こうして、秋の収穫を前に入植者の流入は加速するのであった。
第九章はこれで終わりです。明日以降解説を挟んで、第十章「収穫の時」を始めます。




