160:戦艦「ベトン」就役
【見沼】
ダンジョン構造物製戦艦「ベトン」が完成。外見は客室部分が無い小型カ|ーフェリー。といったところ。
岸辺には村上水軍の2番船「ざぶとん」・河童水軍の3番船「アフォンソ・ダ・シルバ」・久喜水軍の4番船「高柳」が係留され、艤装作業が進んでいる。これらが完成し、船員の訓練も終われば「ベトン」は海上水軍に引き渡される。
「船長候補、ミゲル・マヌエル・コエリョ・ダ・コスタです。」
「同じく船長候補、ロレンソ・ジョセ・サントス・フェレイラです。」
2人の若い河童がマリーに挨拶する。
「河童は船には詳しいとお聞きしましたが、水上から岸にいる敵軍を薙ぎ払う兵器。機関銃をご存じですか。」
「金華獣ですか。名前は聞いたことはありますが……なんとも。」
金華獣ではない。
「火縄銃も大筒も、高価で入手に問題があり、自動化もできませんからね。何か良い方法があればお知らせ下さい。」
造船担当の眷属と船員候補達が乗り組み「ベトン」は出港してゆく。
【第三層群10階応接室】
マリーは機械担当眷属の小林、造船担当眷属の福島と、ベトン級戦艦の武装について相談。
「試験航海は順調です。来年春の小麦の収穫では活躍するでしょう。」
福島が報告する。
「これでも、将来農地が百万町歩になったら輸送力は足りなくなりますね。」
「見沼で運用する貨物船の最大サイズは早い内に決めるべきです。ただ、貨物船が大型化すると船自体も航路や港湾設備も費用が跳ね上がりますから、どこに基準を置くか検討が必要です。」
「船みたいに、トラックもダンジョン構造物で、とは行きませんか。」
「モーターとかタイヤとか、ダンジョン構造物では難しい部品がトラックの大きさに関係しますが、移動図書館に特大型トラックが無いため、このダンジョンでは召喚出来ません。特大型トラックは通行できる道路が制約されるため、移動図書館には向かないのでしょう。何らかの代替策が無いか検討はしてみますが。」
小林が言うように、図書館都市ダンジョン特有の制約として、特大型トラックの移動図書館は無いため召喚出来ない。
「次に、ベトン級戦艦の武装ですが、射程1~2km程度で餓鬼や鎧を打ち抜く威力……機関銃、それも重機関銃が良いのですが、当然この世界にはありません。」
「調べたら、重機関銃は150年ほど昔の世界大戦後くらいの物ですから、どこかに詳細設計図くらい転がっていそうな気がしますが、作るとなるとかなり難しいかと思われます。」
と、小林は懸念を述べる。
「結局、現状では多連装ロケットの釣瓶打ちが一番でしょうか。」
鉄パイプに肥料を詰め込んだ簡易ロケットは、このダンジョンが初期から多用している。
「図書館の備品に銃火器はありませんし、製造に高度な技術を要する物は手が出ません。現状では仕方ないでしょう。」
「それで、船に搭載する方法はどうしましょうか。」
「舷側はダンジョン構造物で壊れないため、これを盾代わりとし、内側の車両甲板にロケットランチャーを搭載、暴発事故に備え操舵室から遠隔発射。これが良いでしょう。残念ながら大規模な面制圧が可能な数のロケットを製造するのは困難でしょうが。」
福島が言う。
「機関銃は是非欲しいですね。どこかに陸軍駐屯地ダンジョンでも無いでしょうか。」




