155:村上水軍もやってくる
【コアルーム】
「マスター、総の権力闘争に伴い、村上八千代と名乗る者が一族郎党を引き連れ帰属を求めています。」
「村上? ほんとに村上水軍なのか。 ただ、信濃村上氏だったら残念だが。」
「こちらの世界では信濃ではなく『科の国』ですが、反対の方向ですから違うとは思います。織田家がいる世界ですし九鬼氏も居ますから、むしろ村上水軍の可能性は高いでしょう。」
「それにしても、「海上氏に今度は村上氏か。総は荒れているな。暴走する房総だか房総急行だか。」
「ただ、房総急行なんて、この世界の人には分からないでしょう。」
異世界で昭和初めに開業した鉄道で、東京と千葉(富津岬や宗吾霊堂や芝山仁王尊。成田不動は別)を結ぶ。
【第4層群・会議室】
「このダンジョンの側近書記、マリーです。人間風に名乗るなら、紫蘇図書頭となります。」
「村上一族の村上八千代と申します。」
もちろん、この世界の人間の習慣通り、八千代は本名では無く根拠無しに縁起の良さそうな名前を名乗っているだけ。
「総の国と揉めて出奔したと聞きましたが。」
「お恥ずかしい話ですが、一族の内紛も原因です。」
「内紛ですか。」
「村上家は代々、龍牙城を拠点とし平戸川というダンジョンを管理していました。この川は普段は南から北に流れるのですが、時に逆水と言って逆流することがあり、そう言うときは生贄を捧げて川を宥めていました。」
「典型的な、本能で行動するダンジョンですね。ダンジョンマスターが居ないのでしょう。」
「ダンジョン升? 増田?」
「分かりやすく言うと、ダンジョンの管理者ですね。なぜか『修士』って言う学位……まぁ資格が必要なので『ダンジョンマスター』と言いますが。」
もちろん、大抵のダンジョンにダンジョンマスターなど居ない。
「100年ほど昔、平戸川の北に住んでいた名主が、生贄に反対し、ダンジョンの水を南の千葉に導けば有効活用でき、もし逆流しても水を抜くことが出来ると主張、総の国は平戸川から水を抜く水路を掘ろうとしました。」
「確かに水は貴重ですからね。」
「しかし、総の予算と名主の私財を1万両以上も投じ、力の強い鬼や水辺で生活する河童まで雇ったものの失敗に終わり、その名主も破産しました。」
「確かに、ダンジョンの川となると、人が制御するのは、なかなか難しいでしょう。」
「その後も再度工事を試みるも失敗していますが、このたび総では、こちらの『百万町歩開墾計画』に影響され、またも平戸川の水を抜く計画が持ち上がりました。総は10万両でも20万両でも使うと言い、我が村上家はその費用負担で国と揉め、負担は拒否すべきと言う一派と、要求を受け入れるべきという一派に分裂してしまいました。」
「つまり村上八千代殿は工事反対派ということですね。」
「はい。途中に硬い粘土質の掘るのが困難な丘があり、さらに南側との高低差が少ないため水を流す勾配が確保出来ません。このダンジョンみたいに、ダンジョンそのものが領地経営に乗り出しているなら別ですが、人の手では工事は上手く行かないでしょう。」
「ダンジョンが直接統治しているのは、別に隠していることでもありませんからね。それで、川を管理しているのでしたら、当然村上水軍は船を扱うことは出来ますよね。」
「はい。平戸川の川船でしたら。」
もちろん、ダンジョン「マスター」に「修士」が必須。なんてことは無い。
なお、大抵のダンジョンは天然洞窟・廃坑や廃屋と見分けが付かず、コアも固有法則も無くダンジョンマスターも居ない。ダンジョンモンスターも居ないが、コウモリなどが住んでいたりする。




