153:海上軍が亡命してくる
【無名橋】
中山路、豊島代官所・平塚の手前に涸れ川を渡る無名の橋がある。名前を付ける程でも無いという訳では無く、異世界とは地形が異なるため戸田橋か志村橋か板橋か、あるいは別の名前にするか決まっていないだけ。
橋には関所があり「定 切支丹宗門は累年御禁制たり 自然不審成者是有は申出へし 御褒美として 伴天連の訴人 銀500枚 伊留満の訴人 銀300枚……。」という高札が立てられているが、関所の人々は誰も気にしていない。マリーが嫌っているはずの餓鬼すら商人や冒険者なら素通し状態。
「すまぬ、海上太郎と言うが、こちらに移住したい。よろしく頼む。」
ダンジョン影響圏の端、橋の平塚側にある関所に、着の身着のまま逃げてきたと思われる一団がやってきた。
「鼎村の富木長慶だ。移住なら寺請証文はお持ちか。」
「ああ、総から闕所の上所払いされたゆえ、寺請証文と送一札はある。」
要するに財産没収の上で追放。ということ。
「聞いて良いかは分からないが、何をやったんだ?」
「祖母の海上典膳が調子に乗って粟と結んで兵を起こし、その留守を総に攻め込まれた。城に兵はおらず到底籠城は出来ないので、腹を斬って降伏しょうとしたが『腹を斬る価値も無い』と言われ一族郎党残らず追放された。」
「で、その典膳殿は?」
「まことに申し上げにくいことではあるが、ここに攻め込んで返り討ちに遭ったのか行方知れずだ。亡命など言える立場で無い事は分かっているが、他に行くところも無い。このままでは砂漠で干物になってしまう。それも、これまで殺生を重ね多くの魚を干物にした因果なのかもしれぬが。」
【コアルーム】
「側近書記殿、以上、連絡がありました。確かに虫が良すぎる話ですが。」
管制室のミントから報告が入る。
「管制も専属オペレーターが必要かな。」
「さらに通行量が増えたら必要でしょうね。常時監視するなら三交代で最低4~5人の入植者または眷属が必要でしょう。ただ、入植者をダンジョン中枢部に入れるのは危険ですから、もし入植者を使うなら別層群に管制室が必要です。」
「確か、海上って飯沼だったな。干し魚を産するダンジョンだったか。」
「魚を産するダンジョンで、魚は日持ちしないので干し魚に加工されます。飯沼のダンジョンは薬缶状で口が狭く奥に海が広がっているとのことです。その形から銚子とも言うそうです。」
マリーが説明する。徳利ではない。
「マリーさん、海ダンジョンということは、海上氏も海に詳しいということか。海上だけに。」
「その可能性はありますね。」
「それで、海上氏は信用できるのか?」
「できませんよ。」
あっさり言うマリー。
「なら追い返すか。」
「いえ、ほかで暗躍されたら面倒ですが、ダンジョン影響圏内に押し込んでおけば、もし裏切ったら帰雲城の内ヶ島氏みたいに一族ごと砂に埋めたら済みます。むしろ飼い殺しにする方が安全ですし、このダンジョンのためにこき使う方がさらに有意義です。また、もし船を扱うことが出来るなら、わざわざ商船学校を召喚して希少な眷属枠を消費せずにすみます。」
「ヨシ、ならば、こちらへ来て貰おう。……どこに住まわせようかな。」
「順当に考えたら、北西か北東の20里距離か、織田城方向の街道を優先して東30里。でしょうか。」
正しくは小田城である。この世界の小田城は図書館都市ダンジョンから300kmも離れており、東京から名古屋や仙台みたいに飛行機が欲しくなる距離。なお、異世界には新幹線は存在せず、電車で名古屋・仙台へ行くことは出来ない。




