152:道路システム
【第三層群10階応接室】
マリーは次に第三層群10階南側応接室で土木専門の浜田博士に道路について相談。ヘルメットに納まるウェーブのかかった短髪は光の加減によっては構造色により青紫にも見える焦茶色で、明るい青紫の髪飾り。大きな目。背は普通でマリーより少し低く、やや浅黒く比較的がっしりした体格。見た目はいかにも山の神に可愛がられそうなオバチャンだが、もちろんハマゴウに雌雄は無い。
「ダンジョン構造物はダンジョン影響圏内でしか存在できません。このため、現在、入間代官所霞ヶ関方面と豊島代官所平塚方面は、橋の向こう側で道が途切れています。橋から町まで舗装道路を作れないでしょうか。」
「材料が問題だな。アスファルトは原料の重質油を採掘するか微生物で合成する必要があるし、コンクリートはセメントの製造に原子炉の高温が必要だ。ジオポリマー系の一部種類ならこのダンジョンでも用意可能だろう。問題になるのは火山灰くらいか。」
「なら、その方向で準備を進めて下さい。コンクリート舗装は水道管や電線などの埋設に向かない(部分補修が面倒)という弱点はありますが、この世界では気にする必要は無いでしょう。その間に、西の入間へはスカーレットを、南東の豊島へはキンランを派遣して打ち合わせを進めます。」
【第三層群10階応接室】
マリーは引き続き、電気専門の荏原博士と打ち合わせを行う。荏原博士は性別・年齢不詳。ついでに正体不明。
「図書館の公用車を召喚、人工衛星が無いので、ダンジョンの上層部に通信アンテナを設置、ダンジョン影響圏内は高架道路を自動運転、影響圏外と緊急時は遠隔制御します。」
「電動の自動運転車を交通の基本にする。ということですか。確かに鉄道は入手自体出来ない。自動車でもガソリンは入手不可能。現状では妥当な選択でしょうが、持続性に課題がある。」
「100m道路では交通量を捌ききれなくなりますか。」
「人口が増えたらその危険もあるが、まずダンジョンエネルギー的な問題が出てくる。全住民分の車を召喚し、毎日それに充電するとなると、エネルギー収支が赤字になり最悪ダンジョンが崩壊する危険がある。」
「それは困りますね。」
「社会自体は江戸時代水準を基本としているし、バスを併用するにせよ基本は徒歩中心で行くしかあるまい。」
「当面は、乗用車やバンは紫蘇(修羅)や眷属、あと飛脚などが使うことにしましょう。ある程度はバスを導入するとしても、交通問題は長期的課題ですね。」
【第三層群10階応接室】
マリーは最期に、機械専門のサック博士と相談。見た目は細身で少し小柄の男。ウェーブのかかった短めの黒髪。
「サワッディー・カップ。移動図書館をバスに再改造するとか。」
「そうです。乗用車を普及させるのはダンジョンエネルギー面の制約があり、鉄道は入手自体不可能です。このダンジョンでは図書館の備品しか召喚出来ませんから、自動運転対応の移動図書館をバスに改造します。」
「側面が開くよう加工されたものは再改造困難だが、車体にあまり手を入れていないなら、バスへの転用は十分可能だろう。だが、小型のミニバスが多く、中型バスが少数、あまり大型のバスは無さそうだ。」
「まずは、5方面に1日2便として、最も遠い平塚方面は約200kmだから片道3時間、片道で電池が尽きるから充電時間も考慮し4台必要、霞ヶ関など他は片道40~80km程度なので各1台で、予備込みで10台ほど準備してください。」
この世界の時間は不定時法だが、ダンジョンでは分かりやすく異世界の時間を使うことも多い。ただし1日の長さが異世界より少し長いので、毎日時刻合わせが必要。
移動図書館の走行距離は短いため、時速70~80キロ・航続距離100~200kmの電気バスで十分。このため異世界召喚して高速バス的な使い方をするには向いていない。
長距離移動する高速バスやトラックなどの重自動車は重油(A重油)を燃料とするものが多いが、重油など炭化水素燃料は藻から合成するにせよ化石燃料を使用するにせよ、大規模な工場設備が無いと生産出来ない。なお、世界によっては技術の都合や税制により異なる場合もある。




