151:農業システム
【第三層群10階応接室】
召喚の翌日、早速マリーは大場博士に農地の状況を説明。
「ふむ、農作物も農業技術も江戸時代並み。か。」
「はい。入手出来る異世界の現物は基本的に図書館の備品や雑誌の付録のみです。あと、ダンジョンモンスターが紫蘇(修羅)なので、植物のシソ用の肥料と農薬は入手できます。種に関しては雑誌の付録等にあれば入手出来ますが、芋は無理ですね。」
「そうなると、農業機械が無く、肥料と農薬も制約されるため、慣行栽培は難しいな。特に農薬は適用作物が指定されているし、安易に合成に手を出すと大惨事を起こしかねない。」
慣行栽培とは一般的な商業農業で使用される栽培方式であり、機械により省力化し、肥料と農薬で収量を増やす。
「召喚出来るのが紫蘇ファミリーの修羅だけですからね。」
「機械が無いと労力が多く必要になるため、農家の経営規模を拡大できない。とはいえ、田畑はダンジョン構造物だったな。畦や用水路の手入れを大幅に省力化できるから、江戸時代ほどの手間はかからないだろう。」
「入手可能な資材で作ることの出来る農機具は積極的に導入していきますが、足踏式脱穀機や唐箕の電動化は可能でも、さすがにトラクターなどは現状入手出来ませんね。」
「農機具の『機能』を確認し、この世界で量産可能か個別に精査が必要だな。」
「次に農薬。特に販売用の稲や主食の麦で病虫害が蔓延すると大飢饉を引き起こしかねません。」
埼玉の主食は麦であり、米は祭りでしか食べない。
「農薬は適用できる作物が指定されているが、このダンジョンで入手出来るのは適用作物が『しそ科葉菜類』などシソ科植物用の物のみ。他の作物にも使える物はあるが、当然ながら主要な作物を網羅してはいない。」
誤用しても、さすがに20世紀の農薬みたいに「虫より人間に良く効く」なんてことは無いが、抵抗性害虫が増えるなど副作用がある。
「そこが問題なんですよね。シソ科は害虫は少なく、注意すべきなのはベニフキノメイガとオンブバッタくらいですが、多くの農作物は作物を育てているのか、害虫を養殖しているのか分からなくなりかねません。ある程度は物理駆除でも対応は可能ですが、ゴキブリ駆除ロボットではコストがかかりすぎます。」
「リンゴ・モモや青菜・キュウリなどは農薬無しでは、相当の特殊技術が無いと商業栽培は困難なので、当面は栽培規模を自家用に留める。というのも考慮すべきだろう。米や麦は農薬以外の栽培技術も開発が進んでいるから、平均すれば6~7割の収穫は見込めると思われる。」
「それくらい確保出来れば、当面は十分ですね。」
「慣行栽培の水稲は反収500kg。各種の制約はあるが、見たところ、道具や肥料によって20世紀前半並みの反収300kg、概ね2石は十分妥当な数字だと思う。」
「百万町歩の7割が水田で収量1,400万石。百万町歩全てが公称反収1石の四公六民なので年貢400万石。と。」
「計算上はそうなるな。ダンジョンに龍が居るから天候不順はある程度緩和できるとして、あとは病虫害をどこまで押さえ込めるか。」
「ベニフキノメイガ」
芋虫。シソやバジルなどを食い荒らす。糸で葉を綴り合わせ中を食害するため鳥に喰われにくく農薬も効きにくい。
「オンブバッタ」
雌の背中に雄が載った特徴的なバッタ。バッタにしては動きが鈍いため、手で捕まえ首を捻じ切るのが手っ取り早いが「リア充は死ね」なんて言ってはいけない。




