144:モンスター養殖の可能性
【コアルーム】
「マリーさん、ふと思ったんだが、モンスターも眷属も召喚枠は限られているよな。」
「ええ、このダンジョンではそうですね。『ダンジョン大百科』によると、普通『主系列モンスター』は一般種族の名無しなら比較的多数召喚出来、上位種族は人数が制限されるそうですが、このダンジョンはオリジナルモンスター『紫蘇(修羅)』に置き換わっているため、名無しの下位種族が存在しません。もっとも海賊船ダンジョンもネズミやゾウムシは無制限に召喚出来ても海賊の手下は制限されますから、事情は同じでしょう。」
海賊は船長も手下も通常種族は同じ。例えば海賊船ビーグル号はフィッツロイ艦長やダーウィンから船員まで人間である。なお、主系列と言っても恒星では無い。
「もし、モンスターを繁殖させたら召喚枠の制約は回避できるんじゃないか?」
「え?」
「先日、入間の仙波掃部助殿が来ただろ。武将を繁殖させて殖やすって話。」
「繁殖って……確かに、仙波左馬允殿に入間の金子掌侍殿の孫娘を掛け合わせて優秀な武将を生産する。と言うことも出来ますね。いわゆる『人種改良』と言いまして、異世界ではマルサス・ダーウィン主義政党の進化党が『人種改良を国策に』と唱えています。」
「あったかな。泡沫政党までは知識がない。」
「泡沫とは言わないで下さい。毎回議席ゼロの『真社会党』ではないのですから。それで、確かに繁殖して殖えた分はダンジョンモンスターの召喚数制限に含まれませんし、大抵の紫蘇(修羅)は簡単にクローンで殖やすことが出来ます。ですが、ただの植物では無く修羅となると、一人前になるのに10年20年と必要です。」
「時間が掛かるか。」
真社会党は社会大衆党とは無関係で、むしろ優生学の異端。人間社会をハチやアリのような真社会性に変えようという政党。
「あと、名前無しモンスターは自我が無いので命令には従いダンジョンマスターに反抗しませんが、繁殖したモンスターは普通の生物同様にマスターに従うとは限りません。『ダンジョン大百科』記載の事例ですが、洞窟型ダンジョンを掘るのに巨大アリを召喚し繁殖させたら、殖えた巨大アリがダンジョンマスターを襲って食べてしまったことがあるそうです。幸い一般のダンジョンモンスターはダンジョンの外に出ることは出来ませんから、ダンジョンエネルギーの枯渇により巨大アリが死滅して収束したそうです。」
「名前付きモンスターを殖やしたらどうなるんだ。」
「二郷半領水郷の鮎みたいに、普通の種族になると思われますが、試してみましょうか。」
「試すってどうやって?」
「この第三層群の屋上に、わたしの『分身』というか『本体』というか世界樹がありますが、その枝を挿し木したらクローン植物のローズマリーが増やせる。というのはマスターもご存じかと思われます。」
「普通に挿し木だな。」
「クローン植物は遺伝的には同一ですが、ミント(修羅)の分身とは異なり別個体です。挿し木した苗をダンジョンの力でモンスター化すれば、理論上ダンジョンモンスターを増やすことは可能です。もちろん年数はかかりますが。ただ、わたしのクローンを作っても名前をどうするか……。この秋か来年春の良い季節になるまでに考えてみます。」
「でも、クローンは『人種改良』にならないのでは?」
「はい、なりません。品種改良は枝変わりを待つか、紫蘇(修羅)同士を掛け合わせないといけませんが、交配は近い種類でなければ出来ませんし、相性の問題もありますから、修羅も獣人も生物学的には全て交配可能な人間みたいに簡単に殖えたりはしません。植物のミント同士なら容易に交雑して、繁殖力が高いだけで匂いも良くない雑草になってしまいますが。」




