143:見沼に戦艦を浮かべて……?
【コアルーム】
「マリーさん、せっかく湖を作るんだから、船を用意したらどうだろうか。貨物船なら大量に物を運ぶことが出来るし、戦艦があれば防衛に役立つ。」
「現在、召喚出来るのは図書館の備品のみと言う制約があるので、いわゆる『図書館船』しか召喚出来ません。しかも、それらは電動式では無いため、燃料が調達できません。」
「作るというわけにも行かないよな。」
「さすがに船ですからね。日曜大工では水難事故の元です。船は設計も造船も、専門の技術者や職人が1人や2人ではなく多数必要になります。」
「造船科のある大学や実業学校を召喚したら、そういう人材が手に入ったりはしないだろうか。」
「船の設計自体は、追加の名前有り一般モンスターで多少割高ですが船舶工学だか海洋システム工学だかの人材を召喚すれば出来るでしょうが、実際に船を造るとなると、何度も問題になっているように『産業基盤』の制約が出てきます。確かに召喚出来る紫蘇(修羅)は21世紀の技術を持っていますが、この世界で手に入る物は材料も工具も江戸時代水準。召喚出来るのは図書館の備品と雑誌の付録だけです。」
「船は難しいか。」
「例えば、船体を構成する鉄骨や鉄板だけでも、鉱山を探して鉄鉱石を掘り出し、原子炉の高温で還元し、さらに加工しないといけませんから大規模な工場群が必要になります。『百万町歩開墾計画』が完成し、10年単位で人材育成と工場の建設を行い、ようやっと可能になるでしょう。」
「永遠の10年ではなく、次の敵襲までに戦艦を用意するのは不可能かな。」
「不可能です。それに戦艦はとんでもない金食い虫ですから、百万町歩の生産力でも到底維持出来ません。そもそも見沼の水深では座礁します。」
百万町歩の生産力は米1,400万石・麦750万石で、輸出が無くても1,400万人分程度。しかし、戦艦1隻を養うのには英米仏の先進工業国ですら人口3,000~4,000万人が必要な計算。人口5,000万で戦艦2隻を保有するアルゼンチンは、さすが世界有数の富裕国だけあって例外。
「戦艦は不可能としても、現状で建造可能な船となると……。」
「移動図書館から転用したモーターを備えた小型の木造船。といったところでしょう。見沼で使うなら、その程度の方がむしろ扱いやすいとは思います。ただ、船体は木製でも家具の転用では部材のサイズが全く足りないため、栽培するのに数十年必要です。あるいは『丹沢ヒルズ』まで遠征するか。」
「確か相撲の奥地にあるダンジョンだったな。」
「蛭やダニから毒蛇やススメバチまで害虫だらけで、冒険者すら行くのを嫌がる極めて不快なダンジョンとのことです。わたしは大抵の虫は平気ですが、ダンジョンを留守にする訳にも行きません。木材を産するダンジョンは、総の望陀奥地にもあるらしい。と越前屋さんが言っていましたが、こちらも容易に手を出せる場所では無さそうです。」
マリーは名前付きモンスターなのでダンジョンを出ること自体は可能。
「いっそ、『かちかち山』に出てくる狸の泥船の方が入手しやすいかもしれない。」
「……!。確かに、ダンジョン構造物なら強度はありますからね。今のところUSA G.I.獣人も居ませんから『かちかち山』みたいに沈められることも無いですし。ただ、ダンジョン影響圏から出てしまうと崩れ去りますが。」
「造船技師を召喚したら、その方向で検討して貰おう。船頭の狸獣人は……毛の国にいくらでも居るな。」




