142:見沼Ver.2(参考地図あり)
【コアルーム】
「このダンジョンにとって脅威となるのは餓鬼です。餓鬼は比重が高く泳げませんから、餓鬼対策には餓鬼の大軍でも埋め切れないほどの堀、つまり湖が有効です。確かに砂漠で湖は贅沢極まりませんが、幸い、このダンジョンは水を豊富に産しますからダムを作って水を溜めることができます。」
「なるほど。」
「マスター、地図を見て検討した結果、ダンジョン西の涸れ川『鴨川』を南東40里に新設する戸田村付近、東側の涸れ川もその東で堰き止めると、見沼を大幅に拡張し、概ね各宿場町が湖畔近くになる大型のダム湖を作ることが出来ます。このダンジョンの北西側に運河を掘れば完全に島となり、餓鬼に対しては難攻不落となるでしょう。」
マリーは壁に地図を投影し、その上に見沼拡張案を載せる。
「ずいぶんと細長く枝分かれした湖だな。」
「この付近は比較的平坦な土地で、谷の部分が湖になりますから。面積8,000k㎡程度、長さは最大400km。浅いとはいえ水量は琵琶湖3つ分くらいになりそうです。」
面積は沼田ダムの300倍、水量は100倍。異世界では上位の規模に相当する。
「かなり遠くまで水が溜まることになるし、誰か岸辺に勝手に住み着かれても困る。水が溜まる前にダンジョン影響圏に組み込めないか。」
「その必要はありますね。誰か人が住んでいると後で影響圏に組み込めませんから。ちょっと遠すぎる気もしないでは無いですが、水が溜まるには相当日数が必要ですから、時間的余裕はあるでしょう。」
利根川(年間流量90億t程度)の10年分、アマゾン川ですら6日分となるため、ダンジョンエネルギーを余分に投入したとしても、すぐには満水にできない。
「ただ、影響圏に入れたとしても、街道整備とかは手が回らないな。」
「図書館の公用車では遠すぎて電池切れになります。それに、街道に宿場を置いていくなら、護衛の武士団が多数必要になります。ダンジョン影響圏内の映像と音声は確認出来ても、人の心までは読めませんから、ダンジョンの機能だけでは治安維持には限界がありますから。」
「理想を言えば、ある程度の間隔で交番を置くことだが……。それこそ埼玉県警を召喚するとか。」
「さすがに無理でしょうね。さらに、街道を作る場合は、その前に全部をダンジョン影響圏に組み込んでおかないといけません。影響圏が途中までのままで、その先にダンジョンの管理下に無い宿場町などが勝手に作られると、将来の拡張の妨げになります。」
「つまり、影響圏を広げ終わり、追加の武士団を確保するまで、街道は機能させないと。」
「それが良いでしょう。南東、豊島代官所平塚は50里ですが、他の3方向は80里もありますから。ただし、東は途中に筑波が作った『谷越』の町がありますから、現状ではその付近までしか影響圏は広げられません。とはいえ、涸れ川添いとは言え砂漠の町ですからね。砂丘に飲まれたり井戸が涸れたりすることは良くあります。はい。」
「越谷では無いんだな。」
「別に埼玉世界ではありませんからね。このダンジョンだって位置的には大宮に相当しますが、『図書館都市ダンジョン』であって、労農ロシアみたいに固有名詞がありません。あの国も直訳したら『評議会制社会主義共和国連合』です。」
「これ、その、もう一本東側の涸れ川はどうなるんだ? その筑波が作った谷越の前にある分。」
「東側も堰き止めないと水が溜まりませんから、まだ手が届きません。ただ、二郷半領水郷の付近には、かなり広い低地が広がっていますから、下流側を堰き止めれば数十km四方と、ちょっと大げさですが海と言えないことも無い水域を作ることも可能と思われます。」
「いよいよ海か。」
「きちんと塩分濃度を調整するには、流入量・流出量・蒸発量の計算が必要ですから、海として管理するのは極めて難しく、やめたほうが良いでしょう。総の東端、飯沼にある海はダンジョンの固有法則で維持していると思われます。」
「海で無くても海っぽければ良いんじゃ無いか。」
「そうですね。淡水であっても、湘南っぽく、純白のサンゴの砂浜に椰子並木。と言いたいところですが、このあたりで育つヤシなんてあるのでしょうか? ダンジョン中心近くは気候は緩和されると言え、それでも夏は暑く冬は相当冷えますから。」
ただし、湘南海岸の砂は火山性なので黒っぽい。異世界・岩槻のビーチはオーストラリアの砂である。
「もっとダンジョンの範囲が広くなれば、気候も良くなるかも。」




