137:戸田村……でも「戸田」では無い
従来から人が住んでいたダンジョン本体及び5つの城門前の町に加え、武士団の知行となる村、さらにいくつかの農村で本格的な入植が始まる。
【岸村】
「図書頭殿、辻村は『辻小学校』、西村は『西小学校』、仙波村も『仙波小学校』なのに、岸村は『岸町小学校』と『町』が付くのはなぜなのか。」
岸播磨介は村の表札を見ながら言う。
「異世界の学校を複製召喚して転用していますから、その学校が元からそういう名前だっただけです。それこそ紙でも貼って隠すくらいしか。」
「さすがに不細工だな。それは。」
「野与村や蝮村は同じ名前の小学校が見つからなかったので、諦めてもらいました。」
「どこかに無いかな。」
「探してみます……。しかたありませんね。小学校はありませんが、岸村は、かなり大きな町になりますからいずれもう1つ学校が必要になりますし、召喚しましょう。」
マリーはそう言うと、もう1つ学校を召喚し、横に並べる。学校制度が変わった世界にしか無いので、ダンジョンエネルギーが割高なのですが。と言うのは控えたマリー。
「ふむ、『岸中学校』か。岸だし、小より中だから良いな。いっそ、岸大学校なんてのは無いのか。大中小で。」
「このダンジョンで召喚出来るのは、国または地方政府の学校だけですが、少なくとも召喚リストにそういう名前の大学はありません。」
「しかたないか。」
その時、この方面担当のキンランが、マニュアル車免許を持つファリゴールの運転で、武将の男女を連れてやってきた。
「マリーはん、次の武士団見つけて来たで。戸田都濃大領夜市はんと、奥方の富海湯野はんや。」
夜市も湯野も諱では無い。
「下手?」
「あ~、こう書く。」
キンランが、預かった感状を提示。
「え~と、戸田?」
手書き文書は読みにくい。
「へた。と読みます。」
都濃大領が答える。
「これで中山路の南側は完成だな。鼎村の先にトダ……ではなく戸田村を置いたら、野宿せず豊島代官所の平塚まで行ける。最前線だから先日も10万の敵軍が押し寄せたばかりだが、その感状持ちなら大丈夫。」
「薙刀の心得はありますから、敵兵の10や20なら倒してご覧に入れますが、さすがに10万となりますと城に籠もり援軍を待つしか無いでしょう。」
湯野が答える。落城すると言わないのは武勇に自信があるためか。なお、薙刀は野戦の集団戦には向かないが籠城戦では多用され、結果として女性が使うことも多い。
「ただ、遠すぎて、近づく敵兵の詳細が分からなかったり、車もドローンも途中で電池切れしたりするという問題はあります。自転車なら電池の問題はありませんが。」
「戸田村は40里、160kmもあるやろ。いくら自転車かて2日は必要や。それに疲れてしゃぁない。ファリゴールはんは車、ラージャはんは馬が使えるけど、わいとアンはんは移動手段の問題がある。」
キンランが言うように、ダンジョンが広くなると交通手段が問題になる。
「何か考えないといけませんね。やっぱり層群間エレベーターを水平移動に転用すべきでしょうか。」




