132:粟軍の最期は呆気なく
【野営地・早朝】
夜明け前、餓鬼が到着し野営地に入るが、餓鬼は別に天幕など要らないので、そのまま地面にゴロゴロ転がって休息。まだ人間達は見張り以外は寝ている。その時、地面が泡立ち小刻みに揺れる。
「地震だ!」
見張りが叫び、野営地の粟軍は飛び起きる。しかし、荷物も人もズブズブと砂に沈んでいく。
「流砂だ。落ち着け、暴れなければ頭まで沈むことは無い。地震が収まってからゆっくり抜け出せば大丈夫だ。」
「おのれダンジョンめ、二郷半領のナマズでも味方に引き込んだか!」
だが、体が重い餓鬼ばかりか、人間も獣人も砂に呑まれていく。
「騙された! このあたりもダンジョン影響圏だ!」
真相に気付いた者も居たが手遅れだった。辞世の句をしたためる余裕も無く砂に溺れていく。
【野営地・朝】
日がすっかり昇った頃には、野営地跡には一面の砂が広がり、表面には力尽きた死体を含め比重が軽い様々な物が散らかっていた。軍勢の7割以上を占める餓鬼は重いので砂の底。
「流砂ですか……。でも、流砂で死にますか?」
「ファリゴール、流砂は水を含んだ砂ですが、比重が高いため相手が餓鬼であっても殺傷力に欠けます。動けなくしたところを日差しで焼くか、満ち潮で沈めるか、複合的な罠にしないと効果は乏しくなりますが、前者では餓鬼には効きません。そこで、砂のプールに地下から空気を吹き込み流動層を作って人を溺れさせ、体力が尽きたら死体をダンジョンに吸収させ、最期に砂を取り除けば補給物資を回収できます。」
「空気ですか。」
「ミントの案ですが。この世界自体が水も空気もダンジョンからの供給に依存しているためか、ダンジョンから水同様に空気も供給することが出来ます。コアからここまで空気を引いてくるのが大変でしたが。」
「生き残りは居ないでしょうか。」
「人間や獣人には居ないようですね。残念ながら、餓鬼は砂に埋まっても生きていますから、砂を取り除いたら、仮死状態のあいだに溝に押し込んで、圧力をかけて潰します。さすがに、手作業で杭を打って1匹づつ仕留めていたら日が暮れるどころでは済みません。」
「それにしても、こうもあっさり罠に掛かるとは。」
「最悪、見沼までは来ると思ったのですが。いずれにせよ、ミントとサピエン先生以外の全員、営業部隊も投入して餓鬼を一掃します。何とか今日中に終わらせて、明日以降、播磨介殿達と冒険者達に物資の回収をお願いします。」
「物資ですか。確かに焼いたりしていませんから回収可能でした。」
「食料や武具はもちろん、大量に餓鬼を傭兵として雇った上に、あれだけ派手に商人に予約を入れていた以上、支払い用に相当量の金銭を持ち込んでいるはずです。全部没収して食品を買うのに使います。」
「マリーさん、これで終わりでしょうか。」
「筑波同様に、もはや粟には余力は無いでしょうし、おそらく総に制圧されるか、良くて属国落ちでしょう。わたしとしては、むしろ餓鬼の動きが気になります。」
「餓鬼ですか。餓鬼が何かすると。」
「10万ほども殺されて、いや、殺すのはこれからですが、怒った餓鬼の大軍が雇い主の粟に襲いかかり更地にしてしまうのか、このダンジョンに世界中の餓鬼が攻めてくるのか。世界に餓鬼が何百万居るのかは知りませんが、あるいは餓鬼を根絶できるかもしれません。そうなると六道輪廻が五道になってしまいますが。」
「餓鬼ですから、誰かが餓鬼道に墜ちたら、また岩から生えてくるのでは?」
「それだと切りがありませんね。」




