126:粟軍確認、方位136・距離420,000
【コアルーム】
「総、国府台より向こう、千葉付近に大部隊を発見。距離420km、旅人ならここまで10日行程です。」
ミントが報告する。コアルームにはマスター・マリー・ミント・ラージャが集まっている。
「おそらく辻村までで15日は必要でしょう。行軍は1日5里か6里。宿場に泊まる大名行列みたいに1日8~10里とはいきません。街道があってもローマ軍は1日25km程度でしたから、荷物があって野営も必要ならそんなものでしょう。」
ラージャが到着予定日を推定。
「西村予定地より向こうはダンジョン影響圏の外ですからね。待つしかありません。」
「ミントさん、ドローンでの偵察は出来ないのか。」
「航続距離が100km余りなので、片道運用なら西村予定地から飛ばせば平塚を出たあたりまで確認可能です。ですが千葉は遠すぎます。」
「人数はどの程度か。」
「館長殿、あまりに遠すぎて望遠鏡では何とも言えません。見えると言うことは数千人は居そうですが……。」
望遠鏡で女は景色しか見てはならず、男は女しか見てはならない。というのが常識だが、ミントは厳密には性別が無いのでどちらも可能。ただ、第455層群の文化センターから持ってきた口径400mmの望遠鏡と言えども、400kmも離れた場所では遠過ぎる上に大気の影響もあり、敵の人数までは分からない。
「粟が人口60万として、徒士・足軽は1万人くらい居るでしょうが、全員を遠征に廻せる訳ではありません。中間や下男など小者や小荷駄隊を加え、動員能力は15,000程度でしょう。総を含めて2万なら総動員、3万ならかなり無理をしている。ということになります。逆に1万以下ならば、だいぶ余力を残した状態でしょう。」
と、ラージャが続ける。
「国府台や平塚で冒険者と傭兵が合流するなら、もう少し増えるでしょうが、このダンジョンは『捕虜を取らない』ことで有名ですから、おそらく参加する傭兵は少ないと思われます。」
ミントが言うように捕虜は取らない。単に捕虜を取るような戦闘はしていないだけだが。
「本気でこちらを攻めるなら総動員するでしょうし、単なる脅しか一部勢力の暴走なら少人数でしょう。房総だけに。」
マリーも何とも判断しかねる。
「そのくせ忍者は野放しなんだよな。」
ミントが言う。
「彼らは表向き何もしていませんからね。忍者なんて依頼人に忠誠心などありませんから、自分に不利な破壊工作はそうそうしないでしょうし。それに、潜入している全ての忍者を把握するのも不可能です。」
「それで、撃退計画だが……」
「マスター、落とし穴に落として本で焼く『本を焼く者はやがて人も焼くようになる』。というのが基本戦法ですが、相手もそれは警戒しているでしょうし、食糧難の折、敵の糧食を焼いてしまうのも勿体ないですから、他の方法も検討します。とにかく、馬鹿げた駄目なアイデアを大量に募集して、何か良い手を考えましょう。」
「岸村の南にある見沼を渡る橋を一時的に撤去し、沼に電気ウナギ……は居ないからコアから引いてきた6600Vの電気を流す。」
ミントの案。
「街道の両側の土を細かく砕いて水を混ぜて流砂にして、街道だけを歩かせ、端から機銃掃射する。機関銃がありませんが。」
ラージャも続ける。
「あるいは、わざと遮蔽物が無い場所を用意する。というのは良い案だけど、分冊百科に銃火器が無いからなぁ。火薬でも調合して地雷原を用意して吹き飛ばすか。」
悩むミント。
「相手がダンジョンについて、あるいは、このダンジョンについて、どの程度知っているか。にもよります。知識を逆手に取ることが出来れば。」




