124:はるか南東での不穏な動き
【南東10里・辻村】
マリーとキンランと岸播磨介、それに辻文蔵は辻村の予定地を視察。
「図書頭様、自動車というものは便利だな。」
辻文蔵が言う。
「自動運転が使えへんさかい、オートマ車免許が紙切れっちゅうのは誤算や。大抵の営業は人が住んどる場所にしか行かへんからな。」
キンランはマニュアル車は運転出来ない。なお、タクシーの場合は二種免許持った運転手が遠隔管理するので乗客には免許は要らない。
「さすがに自動車を改造して、ダンジョン本体からの電波で制御する、なんてのはミントの手にも余ります。」
「今後のことを考えると、せめて鼎村に砦を起きたかったが。」
「播磨介殿、ダンジョン影響圏は、せいぜいこの次の西村あたりが限界ですね。それにしても、食料の輸入が滞り、移民が増えているというのは……。」
「どこかが食料を大量に買い漁っている。」
岸播磨介は断言する。
「そうなりますね。筑波内薬佑が生きていても再戦する余力は無いでしょうし、総方面で買い付けが多いそうなので、総が粟を総攻撃するのでしょう。ただ、国府台で特段動きが無いのが謎ですが。」
「逆に、粟が総を、あるいは総を素通りしてこちらへ攻めてくる可能性もある。」
と岸播磨介。
「総が粟の通過を許すやろか。」
「危害を加えず、単に街道を歩いて通過するだけなら黙認するだろうな。粟と戦えば被害が出るが、粟が勝ったら飛び地になるから以降は宿代を強請ることができるし、負けたら逆に弱体化した粟に攻め込む事も出来る。」
「総とは他国軍の通行を阻止しろ。なんて約束結んでいませんからね。で、仮に粟が攻めてくる場合……。」
「こちらは武士団が6つで100余人。西帯刀と鼎弾正が来るのは先だ。」
「1万石ですから100人は妥当な数ですし、相手が普通の人間なら十分です。餓鬼だと面倒ですが。」
「餓鬼か。」
「餓鬼は『動く石』ですから、何日も餌が無くても平気な上に、焼いても水に沈めても死にませんし、大量に居たら積み上げることで城壁も堀も落とし穴も無意味になります。いわばダンジョンの天敵ですね。餓鬼だけならまだしも、軍師と餓鬼が揃っていたら、退治は容易ではありません。」
「確かに餓鬼は首を刎ねるか頭を潰さないと殺せないからな。その上硬い。数が多いと厄介だ。もっとも、水没させたら餓鬼と言えども息が出来ないので仮死状態になる。水から引き揚げてもすぐには動けないから、いっそ龍を使って大洪水を起こして辺り一面沈めてしまうとか。」
「そりゃ無理や。そんなにたくさんの水はあらへん。ここらにあるのは砂ばっかりや。そんで、砂やったら餓鬼かて沈みはせえへん。」
「流砂でも作れば進軍を遅らせることは出来るが、沈む訳では無いからな。」
「敵が攻めてくる場合、田畑を守るのは困難なため、辻村は作付保留。詳細は今後検討しますが、岸村の手前、見沼を最終防衛線と仮定します。商人を止める……のは難しいでしょうか。」
「商人は図書頭様に従っている訳では無いからな。粟軍が金を払う。と言えば売りに行くだろう。商人から無理に商品を没収したら問題になる。」
異世界戦国時代でも小荷駄隊は補助的な役割で、食料は現地調達が基本だった。つまり商人や農民から銭で買う。あとは敵からの略奪だが、農民も武装している時代故にあまり効率は良くなかった。この世界は砂漠が多いため戦国時代よりは大規模な小荷駄隊が運用されるが、それでも銭で済むなら銭で済ませる。
「キンラン、辻村は場合によっては要塞化できるように準備。西村の建設は敵軍確認まで休止しますが影響圏は無理して西村まで広げます。鼎村まで用意できれば良いのですが、さすがに現状では無理です。それに、30里だと車が電池切れになって往復できません。」
「了解。」
「それと、辻文蔵さん、辻村の位置は、岸村の南隣ではなく、本当に10里離れたここで良いのですか。」
マリーは埼玉県の地図を見ながら確認する。
「問題無い。」
【コアルーム】
「マスター、粟が攻めてくる可能性があるようです。念のため、今後飢えないために不可欠な田畑作りと種の召喚は継続、他の活動は最低限にしてダンジョンエネルギーを節約します。」
「マリーさん、今度は粟か。筑波がああなったのは知っているだろうに。」




