122:入植者第何陣だったか、もはや不明
【琵琶橋】
「同志図書頭様、盛況ですね。」
燃料商の越前屋がやってきた。移民や商人や冒険者が次々橋を渡ってダンジョンへ向かう。逆に入間へ向かう商人や冒険者も居る。
「ですが、移民は予想より多く、逆に食料の買い付けが上手く行っていません。」
「食料が値上がりしていますからね。このダンジョンへの旅人が多い影響もあるでしょうが、先日もお伝えしたように、やはり総で大量に注文が出ているそうです。」
「総が粟にでも戦を仕掛けるのでしょうか。このダンジョンへは来ないと思いますが。」
「つまり、総には負けない。と総も分かっている。と。」
「慢心は禁物ですが、既にこの図書館都市ダンジョンは大部隊での攻略には向きませんからね。それに、一般にダンジョンは少数精鋭の冒険者で制圧するものですが、ここは固有法則で『部外者立入禁止』です。もちろん、弱点はありますが、それは秘密です。」
「粟は大々的に傭兵と冒険者を募集していますから、総への対抗なのでしょう。」
【コアルーム】
「マスター、入植者は一度、ダンジョン本体及び城壁の5つの町に収容し、職業を確認し本人の希望により村や町に割り振ります。この図書館都市ダンジョンで生活するために必要なことを教えた後、実際に住む家へ移るという手順になっています。そろそろ、最初の農村を立ち上げる予定になっています。が……。」
「が?」
「このままでは、いずれ図書館が枯渇しますから、引き続き『学校図書館』の解放による小学校校舎の召喚が出来ないか検討中です。」
「滞在冒険者数か高低差か。って話だったな。でも、ミントさんが言っていた『ダンジョン内の同時滞在冒険者数1万人』は、考えて見たら筑波内薬佑撃退の時に敵軍と住民を合算すれば達成済みではないか。」
「第一陣がほぼ1万、住民を加えたら確実に万は越えていますね。もしそうなると10万人か10万フィートか。解放基準は中途半端な数字かもしれませんが。あるいは蔵書10万冊なら可能なのですが。」
「10万冊読む。だったら大変だな。」
「本の長さは多様ですが、かなり速く一日平均5冊読むとしても10万冊なら50年以上必要です。」
「読み書き出来る全員で分担したって間に合わないな。」
「第三層群(大学図書館)や、第六層群(最大の自治体図書館)みたいに蔵書200万冊なら1,000年必要ですが、ダンジョンの名前付きモンスターは事実上寿命は無いので、時間を掛ければ可能と言えば可能です。とはいえ、さすがに図書館の本を全て読む者は居ないでしょう。」
「仕事は無く毎日10冊でも500年か。」
「さすがに、そのレベル、何百年もひたすら本を読むだけ。となると、むしろ地獄の責め苦でありそうな気がしますね。わたし、『図書館地獄』は、1日中強制的に本を読ませるか、逆に、目の前に多数の本があるけど読むことを一切許されないか、さもなければ本に埋められて亡者なので死ねない。のどれかでは無いかと思います。」
「それ以前に200万冊も覚えていられないぞ。」
「樹木系の修羅なら『本体』の植物にいくらでも記憶を書き込むことが出来ますが、なにぶん記憶密度が低いので相当巨大な、それこそ『世界樹』が必要となります。わたしも電子化ならぬ樹木化を進めるつもりですが、さすがに200万冊までは考えていません。」
「どこかで『読まれた本の数』が何かの機能の解放条件にならないとも限らないが。」
「本の虫ですか。マスター、昆虫は本を持ち運ぶことが出来るほど大きくは出来ませんよ。もっとも、元々は英語の比喩表現ですが。」
「巨大蟻とかは存在できないのか。」
「存在できるのは対応した『固有法則』を持つダンジョン内だけですね。狐狸が化ける場合も、このダンジョンを含め普通は質量保存の法則に従うように、自然科学の法則を外れるのは容易なことではありません。もっとも、『化ける』自体がかなり特殊な能力ですが。」




