121:遙か西から来た3人の蛸入道
121:遙か西から来た3人の蛸入道
「仙波左馬允です。図書頭様、琵琶橋に蛸入道が3名来ました。明後日夕方にはそちらへ着くと思われます。」
琵琶橋の関所からダンジョン本体へ連絡が入る。
「はい。で、蛸入道ですか。」
「蛸獣人の出家です。」
「蛸? ですか。脚が八本ある?」
「はい、その蛸です。」
もちろんタコは肉食なので出家できる宗派は限られるが。
【第四層群応接室】
3人の蛸入道がやって来た。
「拙僧が朝霧入道、こちらが大蔵入道と人丸入道だ。西の地よりこちらに来た。」
袈裟を着たタコ。頭足類なので胴は無い模様。もちろん茹だっていないので色は赤くは無く、砂漠に合わせた白っぽい色だったが、室内に入ると黒っぽい色に変色。
「どのようにして、こちらを知りました?」
「こちらに、岸播磨介と言う者がおるであろ。」
「ええ、騎士団長ですね。」
「その岸一族が親族を呼び寄せるついでに声を掛けられたという訳だ。何でも、周囲数里に10を越える村を作ると聞いたが、だいぶ話が古いようだな。」
「だいぶ昔の話ですね。とはいえ、距離を考えたら、驚くべき速さで伝わっています。『悪事千里』と言いますが。」
「はは、今の時代、図書頭様程の悪はそうそう居ない。『百万町歩開墾計画』だったな。その話が伝われば、西からも、この地へ向かう者は多いであろうな。」
もちろん、古い意味での悪。既存秩序をメチャクチャにしかねない。という意味の悪でもあるが。
「西も貧しき民は多いから、助けになるであろう。」
と、人丸入道。
「西の国々には、どれほどの人が居るのでしょうか?」
「拙僧も詳しくは知らぬが、おそらく数百万といったところであろう。」
大蔵入道が答える。
「東は千里の彼方まで人の住まない砂漠だそうですが、南や北からも人は来るでしょうね。そうなると、百万町歩でもすぐに足りなくなるかもしれません。」
「ダンジョンは人が住む村は影響圏に組み込めぬ。だったな。だから際限なく田畑を広げることは出来ぬと。」
「はい。そういう制約はあります。」
「なら、一度滅ぼせば良いのでは?」
言い放つ朝霧入道。
「はぁ?」
「悪く思わないで欲しい。こいつは昔から極論に走る悪癖がある。」
大蔵入道が言う。
「何も殺生をしろとは言わぬし、出家の身でそんなことは言えぬ。入間の者をこちらに移し、無人になってから取り込むとか。」
「人が居なくなってすぐダンジョンに呑み込める訳でも無いようですが。」
「ふむ。そうか。いずれ良い知恵も浮かぶであろうな。」
「そうそう、このダンジョンは書物を産するんだったな。」
マリーに人丸入道が尋ねる。
「異世界の書物ですが。」
「それでも構わぬ。知識を深めるためにも、是非読ませて欲しい。」
「それは大歓迎です。武蔵とは良い関係ですから、滅ぼす訳にはいきませんが。」




